社長が現場を離れられない会社の、抜け出し方。1週間の行動を書き出すところから
結論から、いきます。 社長が現場を離れられない理由は、「社長にしかできない仕事が多いから」ではありません。
社長がやったほうが速い仕事を、全部引き受けているから。
これです。そして、社長にしかできない仕事は、書き出してみると驚くほど少ないんですよ。今日は、それを実際に数える方法をお渡しします。
なぜ「自分がやったほうが速い」から抜けられないのか?
まず、この状態がどう作られるかを見てください。すごくよくできた罠なんです。
- 社員に頼むと、説明に15分かかる。自分でやれば5分で終わる。
- だから自分でやる。実際、その日は速い。
- 次も同じ場面が来る。また自分でやる。
- 社員はその仕事を覚えない。
- ますます自分でやるしかなくなる。
——毎回、正しい判断をしているんですよ。その日単位では、全部正解なんです。だから抜けられない。
でも、1年で見ると答えが変わります。説明の15分は1回きり。自分でやる5分は、年に50回なら250分。投資と消費の違いなんですよね。
そしてもう1つ、認めにくい理由があります。正直に書きますね。
現場にいると、役に立っている実感があるから。
これ、悪いことじゃないです。手を動かせば結果が出る。感謝もされる。一方、社長の本来の仕事——先を考える、方向を決める——は、やっても手応えがない。今日1日の成果が見えない。
だから、つい現場に戻ってしまう。これは怠慢ではなく、人として自然な反応です。自分を責めないでください。
本当に社長にしかできない仕事は、どれか?
判断の基準を置きます。社長にしかできないのは、この4つだけです。
| 社長にしかできない | 理由 |
|---|---|
| 会社の方向を決める | 責任が取れるのが社長だけだから |
| 人の採用と処遇の最終判断 | 会社の空気を左右するから |
| 大きなお金の決断 | 失敗したときに背負うのが社長だから |
| 社外の重要な関係の維持 | 相手が「社長と話したい」と思っているから |
以上です。**この4つ以外は、全部“渡せる候補”**だと思ってください。
「いや、うちはこの作業も自分じゃないと」と思ったもの、ありますよね。それ、たぶん2種類のどちらかです。
- 本当は誰でもできるが、やり方が言葉になっていない
- やり方が特殊で、自分が作ったから自分しか知らない
どちらも、**「言葉にすれば渡せる」**という点で同じです。渡せないんじゃなくて、まだ書いていないだけ。
1週間の行動を、どう書き出す?
ここからが実作業です。難しくないですが、やる人が少ないところでもあります。
手順①:1週間、やったことを記録する
手帳でもスマホのメモでもいいので、やった作業と、かかった時間を書きます。
粒度は「見積作成 40分」「現場の段取り 1時間」「A社に電話 15分」くらい。細かくしすぎると続かないので、15分以上のものだけでいいです。
1週間で、たぶん40〜60個くらい出ます。
手順②:4つに仕分ける
書き出したものを、こう分けます。
- 社長しかできない(上の4つに当てはまるもの)
- 今は社長がやっているが、誰かに渡せる
- やらなくてもいい(惰性で続いているもの)
- 仕組みで消せる(自動化・様式化できるもの)
ここで多くの社長が驚きます。 1番は、たいてい全体の2〜3割しかありません。残りの7割は、渡せるか、やめられるか、仕組みにできるかのどれかです。
手順③:3番から先に処理する
任せる話をする前に、まず「やらなくていい仕事」を消してください。 これがいちばん速くて、誰も傷つきません。
やめ方の手順は“やめる仕事”を決める棚卸しのやり方にまとめてあります。惰性で続いている報告、意味を失った定例、念のための確認——ここに時間が眠っています。
任せる順番は、どう決める?
さて、2番の「渡せる仕事」です。ここで順番を間違えると、全部が失敗します。
順番の原則はこれ。
失敗しても取り返せるものから、渡す。
具体的には、この3つを満たすものが最初です。
- 金額が小さい(間違えても損害が限定的)
- 社外に直接出ない(お客さんの前で失敗しない)
- やり直しが利く(時間をかければ直せる)
逆に、最初に渡してはいけないのがこれ。
- 大口の商談
- 資金繰りの判断
- 人事の最終判断
- クレームの初期対応
なぜダメか。一度大きく失敗すると、社長も社員も「やっぱり任せられない/任されたくない」と学習してしまうからです。委譲そのものに臆病になる。これが一番もったいない。
小さく渡して、小さく成功させる。 これを何回か重ねてから、大きいものに進む。急がば回れ、です。
渡すときに、何を一緒に渡す?
仕事だけ渡して「あとよろしく」だと、丸投げになります。丸投げされた側は不安なので、結局いちいち聞きに来る。社長の時間は減りません。
一緒に渡すのは、この3つです。
① 判断していい範囲
「◯万円までは、あなたの判断で決めていい」——この線を先に引きます。線がないと、全部確認しに来ます。
② 失敗の許容範囲
「これくらいまでの失敗は想定内。ただし、この線を越えたらすぐ言ってほしい」。先に言っておくのが肝です。 後から言うと、ただの叱責になります。
③ 報告のタイミング
「週1回、金曜に5分だけ」のように決める。決めないと、報告が多すぎて社長が疲れるか、報告がなさすぎて不安になるかのどちらかです。
この3点セットの詳しい渡し方は幹部が育たない理由。任せ方の技術に書きました。丸投げでも、細かすぎてもダメ——その中間の技術です。
任せたあと、社長は何を我慢するのか?
ここが、実はいちばんしんどいところです。正直に書きます。
任せると、最初は必ず品質が落ちます。 100%落ちます。自分がやれば80点のものが、60点で出てくる。
そのとき、手を出したくなります。「貸してみろ、こうやるんだ」。——ここで手を出すと、その仕事は永久に戻ってきません。
社員はこう学習します。「どうせ最後は社長がやる」。そして次から、本気で考えなくなる。
だから、我慢する。60点を、60点のまま出させる(もちろん、お客さんに実害が出ない範囲で選んでいるから、それができるわけです)。そして後で、一緒に振り返る。
「今回どこで迷った?」「次はどこを変える?」
これを3回繰り返すと、だいたい70点になります。5回で80点。そこから先は、あなたより上手くなることもあります。 実際、よくあります。
落ちた品質を戻すまでの時間は、損失ではなく投資です。ここを損失だと思っていると、一生渡せません。
抜け出せたかを、どう確かめる?
分かりやすい目安があります。
3日間、会社を空けてみる。
そして、戻ってきたときにこう見てください。
- 止まった仕事はあったか(あるなら、そこが渡せていない場所)
- 誰かが判断に困ったか(困ったなら、判断基準が渡っていない)
- 社長の携帯は何回鳴ったか(回数がそのまま依存度です)
3日で回れば、1週間も回ります。1週間回れば、承継の話も現実的に進みます。逆に、3日で止まる会社は、事業承継の準備がまだ始まっていない、ということでもあります。
そして——これがいちばん言いたいことなんですが——現場を離れた社長がやるべき仕事は、たっぷりあります。売上をどう作るか、次の柱をどうするか、人をどう増やすか。そっちのほうが、会社への貢献はずっと大きい。
現場が回るようになることは、社長の居場所がなくなることじゃありません。やっと本来の席に座れる、ということです。
今日やること:今日1日の行動を、時間つきで書き出す
1週間は大変なので、まず今日だけでいいです。
今日やったことを、15分以上のものだけ、時間つきで書き出してください。 たぶん8〜12個。
書けたら、それぞれに印をつけます。
- ◎:社長にしかできない
- △:誰かに渡せそう
- ×:やらなくてもいい
そして、△が一番多い行に丸をつけてください。 それが、あなたが最初に渡す仕事です。
明日、その仕事をやるとき、社員を1人呼んで、隣で見てもらう。 それだけ。教えなくていいです。見せるだけ。
そこから始まります。社長の時間は、会社でいちばん高い資源です。大事に使いましょう。応援しています!
よくある質問
社長が現場を離れられないのは、なぜですか?
社長にしかできない仕事が多いからではなく、社長がやったほうが速い仕事を全部引き受けてしまうからです。速さを優先し続けると人が育たず、育たないから任せられない、という循環に入ります。まず自分の1週間の行動を書き出して、本当に自分でなければならない仕事を数えることから始めます。
任せる仕事は、どの順番で渡せばいいですか?
失敗しても取り返せるものからです。金額が小さい、社外に直接出ない、やり直しが利く——この3条件を満たす仕事から渡します。逆に、大口の商談や資金繰り、人事の最終判断を最初に渡すと、一度の失敗で双方が委譲そのものに臆病になります。
任せたら品質が落ちるのが心配です。
最初は必ず落ちます。それは織り込んでおく前提です。重要なのは、落ちても致命傷にならない範囲を選んでおくことと、判断基準を渡しておくこと。社長が手を出して元に戻すと、その仕事は永久に戻ってきません。落ちた品質を戻す時間を、投資として見込んでください。
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