“やめる仕事”を決める棚卸しのやり方。小さな会社の省力化は、ここから始まる
結論から、いきます。 業務効率化は、「早くやる方法」を探すことではありません。「やらなくていい仕事」を見つけて消すことです。そして、それを見つける唯一確実な方法が、業務の棚卸しです。
以前、人手不足は“採用”では解決しない。仕事量を減らす3つの順番という記事で、①やめる ②減らす ③任せる、という順番を書きました。今日はその①「やめる」を、実際に手を動かす手順まで落とし込みます。
先に言っておくと、この棚卸しは難しくありません。必要なのは1週間と、紙かエクセル1枚。コンサルも、システムも、いりません。ただし、やった会社としない会社では、驚くほど差がつきます。
業務棚卸しの前に:正確さを目指すと、必ず失敗する
まず、ありがちな失敗から潰しておきます。
業務棚卸しと聞くと、多くの方が「15分単位で全業務の時間を記録する」ようなものを想像します。工数分析のフォーマットを配って、全員に埋めてもらう。——これ、ほぼ確実に失敗します。
理由は単純で、記録すること自体が新しい仕事になるからです。省力化のための調査で人手を食う。3日目には形骸化し、1週間後には「あとでまとめて書いた、たぶんこんな感じ」の数字が集まってきます。それを元に判断したら、判断まで間違えます。
私は前職で20年ほど、大手企業の設備診断の技術コンサルをしていました。振動や油のデータから、機械のどこが傷んでいるかを見つける仕事です。そこで学んだのは、**「測る目的が変われば、必要な精度も変わる」**ということでした。異常の有無を知りたいだけなら、荒いデータで十分なんです。小数点以下まで揃えるのは、原因を特定する段階になってからでいい。
業務棚卸しも同じです。今の目的は「やめる候補を見つける」こと。それなら、精度はざっくりで足ります。
棚卸しのゴールは、正確な工数表ではない。「え、これまだやってたの?」を見つけること。
手順1:1週間、全員に「やったこと」を書き出してもらう
やり方はこれだけです。
- 期間は1週間(繁忙期・閑散期の真ん中あたりの、普通の週を選ぶ)
- 全員が、その日にやったことを箇条書きで書く
- 粒度は**「午前中、請求書づくり」「夕方、日報の入力」程度でOK**
- 分単位の計測はしない
- 書く場所は紙でもエクセルでもLINEでも、いちばん楽な方法でいい
社長がここでやるべき仕事は1つ、「これは評価のためではない」と最初にはっきり伝えることです。ここを言わないと、みんな「サボっていると思われたくない」と考えて、実態より立派な記録を書きます。そうなると棚卸しは無意味になります。
伝え方はシンプルでいい。「みんなの仕事を減らしたいから、いま何をやっているかを教えてほしい。多い少ないは一切評価しない」。これで通じます。
そして社長自身も書いてください。社長の1週間にも、必ず「やめていい仕事」が入っています。
手順2:「誰のため」×「頻度」で分類する
1週間経ったら、出てきた項目を1枚のシートに並べて、2つの軸で分類します。
軸1:誰のための仕事か
- お客さんのため(お客さんが価値を感じる/お客さんの目に触れる)
- 社内のため(判断や管理に必要。お客さんは見ないが、意思決定に使われている)
- 誰のためでもない(誰も見ていない/誰も使っていない/理由を説明できない)
軸2:頻度(毎日/毎週/毎月/不定期)
表にすると、こんな形になります。
| 仕事 | 誰のため | 頻度 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 見積書の作成 | お客さん | 毎日 | 残す |
| 売上の集計 | 社内(判断に使う) | 毎月 | 残す・減らす検討 |
| 会議資料の清書 | 誰のためでもない | 毎週 | やめる候補 |
| 日報の入力 | 誰のためでもない | 毎日 | やめる候補 |
| システムとエクセルへの二重入力 | 誰のためでもない | 毎日 | やめる候補 |
「誰のためでもない」は、必ず出てきます。 例外を見たことがありません。しかも、たいてい毎日やっています。毎日15分の仕事は、年間で約60時間。1人分の1週間半が、誰のためでもない作業に消えている計算になります。
判定に迷ったら、**「これを見ている人の名前を言えますか?」**と聞いてみてください。名前が出てこない資料は、誰も見ていません。
手順3:「誰のためでもない×高頻度」から、止める
やめる順番は、「誰のためでもない」かつ「頻度が高い」ものからです。効果が最大で、反対が最小だからです。
そして、ここがこの記事でいちばん伝えたいところなんですが——
止め方は「1か月やめてみます。困ったら戻します」でいい。
この軽さが、決定的に大事です。「この仕事を廃止していいか」を重々しく議論し始めると、誰も何も決められなくなります。廃止は怖いけれど、お試し停止なら怖くない。実際に止めてみると、9割は誰も困りません。困った1割は戻せばいいし、そのときは「なぜ必要か」がはっきりするので、むしろ得です。
止めるときの注意は2つ。止めることを全員に伝えること(黙って止めると「サボっている」に見えます)と、止めた日をメモしておくこと(1か月後の振り返りができます)。
手順4:やめられない仕事を、減らす・任せるに振り分ける
「誰のためでもない」を片づけたら、残りに手をつけます。ここからは②減らす、③任せる、の領域です。
社内のための仕事は、頻度と精度を落とせないか考えます。毎日の集計は週1でいいかもしれない。社内資料の見た目は60点でいい。判断が変わらないなら、それは削っていい手間です。数字の見方そのものはエクセルで始める売上分析。社長がまず見るべき“3つの数字”にまとめてあるので、集計を減らす前に「本当に見るべき数字」を絞るのに使ってください。
お客さんのための仕事は、原則として減らしません。ここは会社の価値そのものです。ただし、やり方は変えられます。手作業でやっているだけなら自動化の対象になります。何から自動化するかは中小企業が生成AIで最初に自動化すべき“たった1つ”の業務が参考になります。
順番は絶対に守ってください。やめる → 減らす → 任せる。 いきなり自動化に飛ぶと、いらない仕事が高速で回り続けるだけになります。
明日からの一歩:全員に一言、こう伝える
明日の朝礼で、これを言ってください。
「今週1週間、その日にやったことを箇条書きでメモしてください。細かくなくていいです。評価には一切使いません。みんなの仕事を減らすために使います」
これだけです。1週間後、集まった紙を「誰のため」で3つに分けて、「誰のためでもない」の一番上にあるものを1つ止める。
小さな会社の省力化は、システムからは始まりません。「これ、もうやらなくていいよ」という社長の一言から始まります。その一言を出すために必要なのが、この1週間の棚卸しなんです。
来週、社内の誰かの手が少し空きます。その時間をお客さんに向けたとき、会社は前に進みます。まずは1週間、始めてみましょう。応援しています!
よくある質問
業務棚卸しは、どのくらいの手間をかければいいですか?
1週間、全員に「やったこと」をざっくり書き出してもらうだけで十分です。15分単位の細かい記録は不要どころか、記録そのものが新しい負担になって続きません。粒度は「午前中、請求書づくり」程度でかまいません。目的は正確な測定ではなく、やめる候補を見つけることです。
「やめていい仕事」はどうやって見分けますか?
書き出した仕事を「誰のための仕事か(お客さん/社内/誰のためでもない)」で分類してください。誰のためでもない仕事が必ず出てきます。会議資料の清書、使われていない日報、システムとエクセルへの二重入力などが典型です。そこから止めます。
仕事を止めて、あとで問題が起きたらどうしますか?
戻せばいいだけです。「1か月止めてみて、困ったら戻す」という軽さが大事で、止める判断を重くすると誰も何も止められなくなります。実際にやってみると、止めても誰も困らない仕事のほうが多いことに気づくはずです。
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