多能工化のすすめ。少人数の会社が強くなる、配置の考え方

多能工化のすすめ。少人数の会社が強くなる、配置の考え方

結論から、いきます。 少人数の会社が強くなる方法は、人を増やすことではなく、**「1つの仕事に、2人目を作ること」**です。これが多能工化です。

そして大事なのは、全員が全部できる必要はまったくないということ。ここを勘違いすると、教育が終わらないまま現場が疲れます。目指すのは「全員が全部」ではなく、「どの仕事にも2人目がいる」。それだけです。

少人数の会社は、なぜ1人休むと止まるのか?

10人の会社で1人が休むと、単純計算では戦力が1割減ります。でも実感としては、1割どころじゃないですよね。その日の仕事が丸ごと止まることがある。

なぜかというと、少人数の会社では分業が進みすぎているからです。人数が少ないほど、「この人がこれをやる」が固定されます。3人しかいなければ、3人で全部を分け合うしかない。結果、一人ひとりが「自分の担当」を深く持つことになります。

これは効率としては正しいんですよ。同じ人が同じ仕事を毎日やれば、速いし、うまい。平常時は最強です。

問題は、平常でない日です。インフルエンザ、家族の入院、突然の退職、そして繁忙期。このとき、固定された配置は一気に脆さに変わります。

分業は「平常時の効率」を上げ、多能工化は「異常時の生存率」を上げる。

小さな会社に必要なのは、後者です。大企業なら人が余っているので誰かが埋めますが、小さな会社には代わりがいません。代わりを、社内で作っておくしかないんです。

「全員が全部できる」を目指すと、必ず失敗する

ここで多くの会社がつまずきます。「よし、多能工化だ。全員に全工程を教えよう」——これ、やめてください。

理由は3つ。

1. 終わらない。 5人×8業務なら40通りの教育が必要です。本業をやりながらは無理です。

2. 覚えたことを忘れる。 半年に1回しかやらない仕事は、いざというとき使えません。覚えた気になっているだけで、実務では手が止まります。

3. 現場が反発する。 「今の仕事だけで手一杯なのに、なんで他人の仕事まで」となります。当然です。

だから、目標を思い切り下げます。

1つの業務につき、できる人が2人。それだけ。

これを「2人目ルール」と呼びましょう。なぜ2人でいいかというと、休みも繁閑も、2人いれば吸収できるからです。1人が休んでも、もう1人が回せる。忙しいときは2人で分担できる。3人目は、余裕があれば作ればいい。

そして2人目の完成度も、100%でなくて大丈夫です。「その人がいない日、8割の速さで、なんとか回せる」で十分。これなら現実的に達成できます。

スキルマップを1枚作る——30分、A4用紙1枚

多能工化の第一歩は、教育でも研修でもありません。現状を1枚の紙にすることです。

作り方は簡単です。縦に業務、横に人の名前。マスに記号を入れるだけ。

業務田中佐藤鈴木山本できる人数
受注入力××2人
請求書作成×××1人
機械Aの段取り××2人
機械Bの段取り×××1人
出荷・梱包4人
電話応対4人

記号は3段階でいいです。◎ = 一人でできる/○ = だいたいできる(聞けばできる)/× = できない

これを埋めるのに、30分もかかりません。社長が一人で埋めてもいいし、みんなで集まって埋めてもいい。

そして、埋めた瞬間に答えが出ます。「できる人数」の列を見てください。1人の行が、あなたの会社の弱点です。上の例なら「請求書作成」と「機械Bの段取り」。ここに2人目を作る。それが最優先の仕事です。

もし1人しかできない業務がたくさんあっても、落ち込まないでください。見えたこと自体が前進です。見えていない弱点は対策できませんが、見えた弱点は必ず潰せます。

なお、その「1人しかできない業務」の中身を残すやり方は、属人化した業務を仕組みに変える。引き継ぎ書の作り方に書きました。スキルマップで弱点を見つけて、引き継ぎ書で中身を残す。この2つはセットで効きます。

2人目をどう育てるか?——「見せる・やらせる・任せる」を各1回

さて、育て方です。研修は要りません。実務の中でやります。

ステップ1:見せる(1回) 本人がやっているところを、2人目候補に横で見てもらう。ポイントは、「なぜそうするか」を口に出しながらやってもらうこと。手だけ見ても身につきません。

ステップ2:やらせる(1回) 2人目候補にやってもらい、本人は横で見る。口を出さないのがコツです。詰まったところが、教え漏れ。そこだけ補足します。

ステップ3:任せる(定期的に) ここが一番大事です。月に1回でいいので、実際に担当を交代する日を作る

なぜかというと、やらないと忘れるからです。1回教えて終わりだと、半年後には使えません。「毎月第3金曜は、請求書を佐藤さんがやる」くらいのルールにしておけば、能力が生きたまま維持されます。しかも、そのとき詰まったところが、その都度改善されていきます。

この「定期的に交代する」が、多能工化が続く会社と続かない会社の分かれ目です。教えることより、忘れさせないことのほうが難しいんですよ。

多能工化が、じつは会社の“儲け方”まで変える

ここ、少し意外に思われるかもしれません。多能工化は「守り」の話に見えて、「攻め」にも効きます

1. 人を増やさずに繁忙期を越えられる。 忙しい部門に、手が空いた人を回せます。これは「人を1人増やさなくて済む」ということ。人件費を増やさずに売上のピークを取れるので、そのまま利益になります。生産性の考え方は一人あたり生産性の出し方と、上げ方にまとめました。多能工化は、まさに分母を増やさずに分子を増やす打ち手です。

2. 社長が休めるようになる。 小さな会社でいちばん多能工なのは、たいてい社長です。だから社長が一番休めない。社長の仕事にも2人目を作ると、会社が変わります。

3. 人が辞めにくくなる。 これは見落とされがちですが、大きいです。多能工化が進んでいる職場は、急な休みに「いいよ」と言える。休みたいときに休める職場は、時給では動きません。この話はパート・アルバイトが辞めない職場が、こっそりやっていることに書きました。

4. 改善が生まれる。 別の人が同じ仕事をやると、「これ、なんでこうしてるんですか?」が出ます。何年も一人でやっていた仕事に、初めて他人の目が入る。ここから無駄が見つかることが本当に多いです。“やめる仕事”を決める棚卸しのやり方と組み合わせると、効果が倍になります。

今日やること:A4用紙1枚に、スキルマップを書く

今日はこれだけです。

  1. A4用紙を1枚用意する
  2. 縦に業務名を10個くらい書く(社内の主な仕事でいい)
  3. 横に人の名前を全員分書く
  4. マスに ◎ ○ × を埋める(30分)
  5. 「◎か○が1人しかいない行」に、赤丸をつける

赤丸がついた行が、あなたの会社が明日止まるかもしれない場所です。その中から、いちばん止まると困る1つを選んで、「2人目を誰にするか」だけ決めてください。

教育はまだ始めなくていい。誰を2人目にするかを決める、それが今日のゴールです。

少人数は弱さではありません。配置を設計できれば、少人数のほうが速く動けます。 まずは紙1枚、書いてみましょう。応援しています!

よくある質問

多能工化とは何ですか?中小企業でも意味がありますか?

一人が複数の工程・業務をこなせる状態にすることです。人数が少ない会社ほど効果が大きく、急な欠勤や繁閑の波を社内で吸収できるようになります。10人の会社で1人休むと戦力は1割減りますが、多能工化していれば他の人が埋められるため、実質的な影響をほぼゼロにできます。

全員が全部の仕事をできるようにする必要がありますか?

必要ありません。目指すのは「全員が全部」ではなく「どの仕事にも2人目がいる」状態です。1つの業務につき、できる人が2人いれば、休みも繁閑も吸収できます。全員に全部を覚えさせようとすると、教育が終わらず現場も疲弊するので、逆効果になります。

多能工化は何から始めればいいですか?

スキルマップを1枚作るところからです。縦に業務名、横に人の名前を並べ、各マスに「できる/だいたいできる/できない」を書き込みます。A4用紙1枚、30分で作れます。作ると、できる人が1人しかいない業務が一目で分かり、そこが最優先の対象になります。

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