パート・アルバイトが辞めない職場が、こっそりやっていること
結論から、いきます。 パートさん・アルバイトさんが辞める理由は、時給ではありません。もちろん安すぎれば辞めます。でも、時給を50円上げても辞める人は辞める。なぜなら、時給が同じくらいの職場は、他にいくらでもあるからです。
じゃあ何で決まるか。「ここにいると気分がいいかどうか」です。身も蓋もないですが、これが本当のところなんですよ。そして嬉しいことに、ここはお金をかけずに変えられます。
「時給を上げれば残ってくれる」は、なぜ効かないのか?
まず、この思い込みを外しましょう。
時給を上げる。これは効きます。ただし入口だけです。応募は増えるかもしれない。でも、入ったあとに残るかどうかは、時給とほとんど関係ありません。
考えてみてください。時給1,200円のA店と1,250円のB店。50円の差は、週20時間なら月に4,000円です。決して小さくない。でも、「毎日、誰にも話しかけてもらえない職場」に月4,000円で耐えられるかというと、耐えられないんですよね。人はそういうふうにできていません。
しかも、時給で人をつなぎ止めようとすると、地獄が待っています。もっと出す会社が現れたら終わりだからです。お金で来た人は、お金で去ります。 そして時給は下げられないので、固定費だけが残る。
中小企業白書でも人手不足は継続的な課題として挙げられ続けていますが、採用の話ばかりが注目されて、「入った人が辞めない状態を作る」ほうは、あまり語られません。でも冷静に考えると、こちらのほうが圧倒的に安いんです。1人採るコストと、1人が残るために必要なコスト。比べるまでもありません。
採用は「市場との勝負」。定着は「自分たちで決められる勝負」。
勝てるほうから手をつけましょう。
辞めるかどうかは、最初の1週間でほぼ決まる
ここが一番大事なところです。
早く辞めてしまう人の気持ちは、入ってすぐの段階で固まっていることがほとんどです。3か月目に辞表を出すとしても、心が離れたのは初週だったりする。
初日を想像してみてください。新しいパートさんが来ます。挨拶をして、「じゃあ、あの人について見ててね」と言われる。その人は忙しくて、話しかけづらい。トイレの場所も、休憩の取り方も、荷物をどこに置くかも分からない。聞きたいけど、みんな走り回っている。手持ち無沙汰で、3時間立っている。
この日、その人は家に帰ってこう思います。「私、必要とされてないのかも」。
逆に、こういう初日もあります。「今日はよろしくね。分からないことは全部、田中さんに聞いてください。田中さんが休みのときは私に。荷物はここ、休憩は12時から、トイレはあっち。今日やることはこの紙に書いてあります。全部できなくて大丈夫です」。
かかったコストは、ゼロ円です。 でも、この2つの初日を過ごした人の3か月後は、まったく違います。
だから、受け入れの準備をしてください。難しいことはいりません。
- 初日に誰が教えるかを、前日までに決めておく
- 場所の案内を最初にする(休憩室・トイレ・ロッカー・物の置き場)
- 1週間分の「やること」を紙1枚に書いて渡す
- 「全部できなくて大丈夫」と最初に言う
これだけで、初週の離職はかなり減ります。
「教える人が日替わり」が、新人をいちばん追い詰める
小さな会社でよくあるのが、その日いる人が空いた時間に教える、というやり方です。仕方がない事情はよく分かります。でも、これが新人にとってはかなりきついんですよ。
なぜかというと、人によって言うことが微妙に違うからです。
Aさんは「これはここに置いて」と言う。翌日Bさんが「なんでそこに置いたの、こっちだよ」と言う。新人からすると、どちらが正しいのか分からない。そして**「自分がちゃんと覚えられていないんだ」と自分を責めます。** 実際は教える側がバラバラなだけなのに、です。
これが2週間続くと、人は「向いていない」と結論を出して去っていきます。もったいなさすぎます。
対策はシンプルで、最初の1週間だけ、担当を1人決める。ずっと固定しなくていい。「最初の1週間は田中さんに聞く」というルールを決めるだけです。田中さんが休みの日の代役も決めておく。それだけで、新人の頭の中の混乱は劇的に減ります。
もし「うちは人によってやり方が違いすぎる」と気づいたら、それは新人の問題ではなく、仕事が属人化しているサインです。そのときは属人化した業務を仕組みに変える。引き継ぎ書の作り方を読んでみてください。
「ありがとう」は、言葉にしないと存在しない
これは、たぶんこの記事でいちばん軽く見られて、いちばん効く話です。
小さな会社の社長さんは、だいたい感謝しています。パートさんがいてくれるから回っている、と本気で思っている。でも、言っていないことが多い。
言わない理由も分かります。照れくさいし、「言わなくても伝わっている」と思っている。でも、伝わっていません。感謝は、言葉になった分しか相手に届かないんです。心の中の感謝は、残念ながら0円と同じ扱いになります。
しかも、パート・アルバイトの方は、多くの場合「自分がいてもいなくても同じかもしれない」という不安を抱えています。決まった仕事を決まった時間だけやる立場だと、自分の貢献が見えにくいからです。そこに「今日、あれ助かったよ」の一言が入ると、景色が変わります。
コツは3つ。
- 具体的に言う:「ありがとう」より「さっきのレジ、混んでたのに助かった」
- その場で言う:あとでまとめて言われても、何のことか分かりません
- 名前を呼ぶ:「〇〇さん、ありがとう」の破壊力は、想像以上です
感謝を伝える力そのものについては、「ありがとう」を25,000回言おうとして、先にカウンターが壊れました。もどうぞ。
シフトの融通は、コストではなく「投資」
もう1つ、地味に効くのがシフトです。
パート・アルバイトで働く方の多くは、働き方の自由度を理由にその働き方を選んでいます。子どもの学校行事、家族の通院、自分の体調。ここで「無理です」を続けると、静かに離れていきます。
逆に、「その日は大丈夫、なんとかするから」と言ってもらえた経験は、ずっと記憶に残ります。そういう職場は、辞めにくいんです。他の店の時給が50円高くても、「あそこは休みたいときに休ませてくれるから」で残ります。
ただし、これは根性論では回りません。誰かが休んでも回る体制が要ります。一人しかできない仕事だらけだと、社長は「休んでいいよ」と言いたくても言えません。ここを解決するのが多能工化です。詳しくは多能工化のすすめ。少人数の会社が強くなる配置の考え方に書きました。
つまり、シフトの融通は優しさの問題ではなく、体制の問題なんですよね。ここが整うと、優しくできるようになります。
今日やること:次に入る人の「初日の紙」を、1枚だけ作る
大がかりな制度は作らなくていいです。今日、これだけやってください。
紙を1枚用意して、次に入る人に渡すつもりで書きます。
- 今日やること(3つだけでいい)
- 分からないことは、〇〇さんに聞いてください
- 休憩は◯時から。休憩室は△△。荷物は□□に置いてください
- 全部できなくて大丈夫です。1週間かけて覚えてもらいます
これで完成です。10分で書けます。
そして今日、すでに働いてくれている人のうち1人に、その場で、具体的に、名前を呼んでお礼を言ってください。「〇〇さん、さっきの対応ありがとう、助かった」。それだけです。
人が採れない時代に、いちばん確実な人手不足対策は、今いる人に辞めないでいてもらうことです。そしてそれは、お金ではなく言葉と段取りでできます。今日、1枚と一言から始めましょう。応援しています!
よくある質問
パートが辞めるのは、時給が安いからですか?
時給は理由の一つですが、決め手ではありません。時給が近い職場はいくらでもあるからです。実際に辞める引き金になりやすいのは「聞ける人がいない」「教わる相手が日によって違って言うことが変わる」「自分がいてもいなくても同じに見える」といった、日々の居心地の部分です。
定着率を上げるために、まず何をすべきですか?
最初の1週間の受け入れを整えることです。辞める人の多くは早い段階で気持ちが決まっています。初日に誰が教えるかを決めておく、休憩場所とトイレと物の置き場を最初に案内する、1週間分やることを紙に書いて渡す。この3つだけでコストゼロで大きく変わります。
小さな会社では、教える人を固定するのは難しいのですが?
全期間を通して固定する必要はありません。最初の1週間だけ「この人に聞けばいい」という担当を1人決めれば十分です。教える人が日替わりだと、やり方が微妙に違って新人が混乱し、「自分が悪いのかも」と感じてしまいます。これが早期離職のよくある原因です。
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