幹部が育たない理由。丸投げでも細かすぎてもダメな、任せ方の技術
結論から、いきます。 幹部が育たない一番の理由は、能力でも本人のやる気でもありません。
仕事は渡したのに、「判断していい範囲」を渡していないから。
任された側から見ると、これは地獄です。責任だけ乗ってきて、権限が来ない。だから、いちいち確認しに来るか、勝手に決めて怒られるかの二択になる。
そして社長はこう思う。「やっぱり任せられないな」。——双方とも善意なのに、噛み合っていないんですよ。今日は、この噛み合わせ方の話をします。
なぜ「丸投げ」も「細かすぎる」も、同じ結果になるのか?
任せ方の失敗には、両極端の2パターンがあります。面白いのは、行き着く先が同じだということ。
パターン① 丸投げ
「あとはよろしく」で終わり。基準もゴールも渡さない。
任された側は、正解が分からないので、いちばん無難な選択をします。前例通りにやる。冒険しない。そして結果が出ないと「任せたのにダメだった」と言われる。
次からは、引き受けたくなくなります。
パターン② 細かすぎる
一つひとつ確認を求める。やり方まで指定する。
任された側は、自分の頭で考えなくなります。だって、考えても最後は社長のやり方に直されるから。言われた通りにやるほうが安全。
そして、やっぱり育ちません。
どちらも行き着くのは同じ場所です。「言われたことだけやる人」。
原因は共通していて、「任せる」を「渡す/渡さない」の2択で考えていることなんですよ。実際には、任せるというのは条件をつけて渡すことです。条件の設計が、任せ方の技術そのものなんです。
任せるときに、一緒に渡す3点セット
具体的にいきます。仕事を渡すとき、必ずこの3つをセットで渡してください。
① 判断していい範囲
「ここまでは、あなたが決めていい」——この線を、数字か条件で言います。
| 曖昧な渡し方 | 線が引かれた渡し方 |
|---|---|
| 「仕入れ、任せるよ」 | 「1回◯万円までは、あなたの判断で。超えるときだけ相談」 |
| 「値引きは適当に」 | 「◯%までは自分で決めていい。それ以上は私に」 |
| 「クレーム対応、頼む」 | 「謝罪と一次対応はあなたの判断で。金銭が絡んだら即、私に」 |
右側の言い方をすると、任された側は、その範囲の中で自由に動けます。自由に動ける範囲があるから、頭を使う。頭を使うから、育つ。
そして社長側も楽です。線の内側は、報告を待たなくていい。
線の引き方に迷ったら、最初は狭くていいです。 狭く引いて、こなせたら広げる。広げるときに「今日から◯万円まで」と言ってあげると、これが本人にとっての昇進より効く報酬になったりします。
② 失敗の許容範囲
これを言える社長は、正直に言って少ないです。でも、効果は一番大きい。
「この程度の失敗は想定内。気にしなくていい。ただし、こうなったらすぐ呼んで。」
先に言うのがすべてです。 順番を間違えると意味が真逆になります。
- 事前に言う → 安心材料になる。思い切って動ける。
- 失敗後に言う → ただの叱責。次から萎縮する。
「失敗していいなんて言ったら、いい加減にやるのでは」と思うかもしれません。逆です。許容範囲を明示されると、人はその範囲を超えないように慎重になります。 範囲が分からないほうが、事故は大きくなる。
もう一つ、この宣言には隠れた効果があります。社長自身が、失敗を織り込めるようになる。任せた以上、60点が出てくるのは当たり前。それを事前に自分に言い聞かせておくと、手を出さずに済みます。手を出したら終わり、という話は社長が現場を離れられない会社の、抜け出し方に書いた通りです。
③ 報告のタイミング
これを決めないと、両方が消耗します。
- 報告が多すぎる → 社長の時間が減る。任せた意味がない。
- 報告がなさすぎる → 社長が不安になる。結局、聞きに行く。
だから、先に決める。
「週1回、金曜の夕方に5分。それ以外は、この3つのときだけ即連絡してほしい。①金額が◯万円を超えそうなとき ②お客さんが怒っているとき ③納期が危ないとき」
定期報告 + 例外時の即報告。 この2階建てにすると、双方が安心します。
例外の条件を具体的に書いておくのが肝です。「まずいと思ったら連絡して」だと、何がまずいかは人によって違います。基準は、こちらから渡す。
「判断基準を渡す」とは、具体的に何をすること?
3点セットの①をもう少し掘ります。ここが一番、実務的に難しいところなので。
判断基準を渡すというのは、「自分が何を見て決めているか」を言葉にすることです。
やり方は、次に判断が発生したとき、声に出して考えること。
「この注文、受けるかどうか迷ってるんだけどね。見てるのは3つで、①納期に余裕があるか ②この客の支払いが安定してるか ③うちの得意な加工か。今回は②が引っかかるから、前金をもらう条件で受ける。」
これを隣で聞かせるだけで、次から同じ判断ができるようになります。答えを渡すのではなく、見ている項目を渡す。
そして、余裕があれば書き留めてもらう。3か月分たまると、それはもう立派な判断マニュアルです。書き出し方は属人化した業務を仕組みに変える。引き継ぎ書の作り方が使えます。
面白いことに、この作業はそのまま事業承継の準備にもなります(事業承継は10年かかる)。社長の判断が言葉になっている会社は、誰が継いでも回るんですよ。
任せたのにうまくいかないとき、何を見直す?
だいたい、原因はこの3つのどれかです。
原因① ゴールが共有されていない
「売上を上げてほしい」だと、人によって解釈が違います。新規を取るのか、単価を上げるのか、リピートを増やすのか。「何がどうなったら成功か」を一文で言えるかを確認してください。
原因② 権限が実は渡っていない
「任せた」と言いながら、社長が横から口を出している。あるいは、他の社員が「本当ですか?」と社長に確認しに来る。
これ、周りに宣言していないから起きます。任せたら、関係者全員の前で「この件は◯◯に任せた。私ではなく彼に聞いてください」と言ってください。 これだけで、動きやすさが変わります。
原因③ 時間を渡していない
新しい仕事を渡すとき、今の仕事を減らしていない。純増した仕事は、必ずどこかで雑になります。
任せるときは、その人が今やっていることの中から何をやめるか/誰に渡すかもセットで決める。ここまでやって、初めて「任せた」です。
育ったかどうかは、何で分かる?
これも目安があります。
社長に相談に来るとき、「どうしましょう」ではなく「こうしようと思います」と言うか。
「どうしましょう」は、判断を投げ返している状態。まだ基準が渡っていません。 「こうしようと思いますが、いいですか」は、自分で判断して、確認だけ取っている状態。これが出たら、育っています。
そうなったら、次はこう返してください。
「それでいこう。次からは、そのくらいなら私に聞かなくていい。」
線を、少し広げる。この繰り返しです。育成って、実はこれの繰り返しなんですよ。壮大な研修より、この一言のほうが効きます。
今日やること:任せたい仕事を1つ選んで、3点を紙に書く
今日は、誰にも声をかけなくていいです。
任せたい仕事を1つ思い浮かべて、紙に3行書いてください。
① この仕事で、本人が自分で決めていい範囲は:____ ② これくらいの失敗までは想定内:____ ③ 報告は、いつ・どうやって:____
書けなかった行があるなら、そこがまだ任せられていない理由です。3行埋まったら、明日その人に、その紙を見せながら話してみてください。
「任せる」は、気持ちの問題じゃなくて技術です。技術なら、練習すれば上達します。あなたも、相手も。
まずは3行から。応援しています!
よくある質問
任せているのに幹部が育たないのはなぜですか?
仕事だけを渡して、判断基準を渡していないことが多いです。基準がないと、任された側は失敗を避けるためにすべて確認しに来るか、逆に勝手に決めて事故を起こすかのどちらかになります。「どこまで自分で決めていいか」を先に言葉にすることが出発点です。
丸投げと任せることの違いは何ですか?
任せることには、判断できる範囲・失敗の許容範囲・報告のタイミングという3つの取り決めが伴います。丸投げにはそれがありません。同じ「あとはよろしく」でも、この3つを事前に決めてあるかどうかで、相手の動きやすさと結果がまったく変わります。
失敗の許容範囲は、どう伝えればいいですか?
任せる前に、具体的な線として伝えます。「この金額までの損失は想定内」「この事態になったらすぐ呼んでほしい」という形です。事前に言えば安心材料になりますが、失敗した後に言うと単なる叱責になります。順番が決定的に重要です。
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