設備の突然停止を防ぐ。予兆は、音・振動・熱・油の色に出ている
結論から、いきます。 機械は、ある日いきなり壊れるわけではありません。
壊れる前には、必ず兆候が出ています。
そして、その兆候の多くは、特別な測定器がなくても、人の五感で拾えます。音、振動、熱、油の色。この4つです。
ただし、条件が1つあります。「前回と比べる」こと。 これが本質で、ここを外すと、どんな高価な装置を入れても効きません。順に書いていきますね。
なぜ、機械は「突然」壊れたように見えるのか?
突然停止した設備の話を聞くと、たいてい「前触れはなかった」と言われます。
でも、詳しく聞いていくと、こういう話が出てきます。
- 「そういえば、先月から少し音が高かった気がする」
- 「油の交換のとき、いつもより黒かったかな」
- 「触ると熱いなとは思ったけど、動いてたので」
前触れは、あったんです。 ただ、それが「異常」として認識されなかった。
なぜ認識されないか。理由は3つあります。
① 変化が、ゆっくりだから
毎日少しずつ音が高くなっていくと、人は慣れます。昨日と今日を比べても違いは分からない。 でも半年前と比べれば、明らかに違う。
② 比べる相手が、記憶しかないから
「いつもと違う」と言うためには、「いつも」が分かっている必要があります。記憶に頼っていると、担当が変わった瞬間に基準が消えます。
③ 動いているうちは、止められないから
これが実務としては一番大きいです。異常に気づいても、生産中に止める判断は重い。だから「もう少し様子を見よう」になる。そして止まる。
つまり、**突然停止の正体は「気づけなかった」ではなく、「気づいたが、判断の材料がなかった」**なんですよ。ここを変えると、話が変わります。
予兆は、どこに現れるのか?
出る場所は、だいたい決まっています。音・振動・熱・油の4つ。順に、何を見ればいいのか書いていきます。
予兆① 音は、何を聞けばいい?
音は、いちばん早く出る兆候です。しかも、耳はかなり優秀な測定器です。
聞くのは、この3つ。
① 高さ(ピッチ)が変わっていないか
回転部の音が高くなっているときは、どこかで摩擦が増えているサインであることが多いです。逆に、鈍く重い音になるのも変化です。
② 周期的な音が混ざっていないか
「シャー」ではなく「シャッ、シャッ、シャッ」と規則的な音が混ざるようになったら、回転している何かが一定の位置で当たっている可能性があります。一定周期の音は、原因の場所を絞りやすいので、聞き分ける価値が高いです。
③ 起動時と定常時で、違いがあるか
起動直後だけ異音がして、暖まると消える——これは油の状態や隙間の変化と関係することがあります。「消えたからよかった」ではなく、「消えることが変化だ」と捉えてください。
聞き方のコツ。長い棒やドライバーの柄を機械に当て、反対側を耳に当てる。 昔からある方法ですが、これが本当によく聞こえます。空気を伝わる音と、金属を伝わる音は別物なんです。
予兆② 振動と熱は、どう確かめる?
振動は、手のひらと床で拾えます。
- 機械のケースに手を当てて、ビリビリと細かい振動が増えていないか
- 床に伝わってきていないか(以前は感じなかった振動が床から来るなら、それは大きな変化です)
- 特定の回転数のときだけ揺れが強くならないか
振れが増えるのは、回転のバランスが崩れたか、支えている部分が緩んだか、支持しているものが傷んだか。いずれにせよ放置すると加速度的に悪化するタイプの変化です。
熱は、触って比べます。
大事なのは、絶対的な温度ではなく、比較すること。
- 同じ機械の、左右で比べる(同じ構造の場所同士)
- 同じ型の別の機械と比べる
- 先週の同じ時間帯と比べる
「熱い気がする」は判断になりませんが、「隣の同じ場所より明らかに熱い」は立派な判断材料です。
安全のため、直接触れない場所は無理をしないでください。手をかざす、あるいは非接触の温度計を1本持っておくと安心です。高価なものは要りません。
なお、**熱は「最後のほうに出る兆候」**です。音や振動より遅れて出ることが多い。だから、熱を感じた時点では、すでにかなり進んでいる可能性があります。ここは覚えておいてください。
予兆③ 油の色と粘りは、何を教えてくれるのか
ここ、いちばん情報量が多いのに、いちばん見られていない場所です。
**油は、機械の中を巡って戻ってくる“報告書”**なんですよ。中で何が起きているかを、外に運び出してくれている。
見るポイントは4つ。
| 見るところ | 変化が示すこと |
|---|---|
| 色 | 黒く濁る、乳白色になるなど、いつもと違う色は中の状態が変わったサイン |
| 粘り | 指でこすったとき、さらさらしすぎ・べたつきすぎのどちらも変化 |
| 異物 | ざらつき、キラキラした粉、沈殿物。摩耗が進んでいる可能性 |
| 匂い | 焦げたような匂いは、局所的に高温になった痕跡のことがある |
やり方は簡単です。油を抜くとき、透明な容器に少し取っておく。 そして、前回のものと並べて見る。
これだけです。1回だけ見ても何も分かりませんが、3回分並べると、変化の方向が見えます。
乳白色になっていたら水分の混入、キラキラした粉が出ていたら金属の摩耗——というふうに、色や異物は原因の方向を教えてくれます。ここは奥が深い分野で、機械を健康にする方法にも関連する話を書いています。
そしてもう1つ、油を見るときにセットで確認してほしいことがあります。油を入れ替えるとき、軍手をしたまま作業していませんか?
現場でよく見かける光景なんですが、これ、避けたほうがいいんです。軍手には、塵埃や金属粉といったゴミが多量についていることが多い。 しかも、そのゴミは目に見えません。見た目はきれいな軍手でも、油に入るときには立派な異物です。とくに使用済みの軍手は論外で、できれば素手で実施してください。
なぜそこまで言うか。混入したゴミは、摩擦面を傷つけます。金属と金属のあいだで油が守っているところに硬い粒が入るわけですから、そこから摩耗が始まる。さらに、ゴミがパッキンの隙間に紛れ込むと、密閉できなくなって油漏れの原因になります。パッキンを何度替えても漏れが止まらない、というときは、部品ではなく中の汚れを疑ってみてください。
油の色を熱心に見ていても、入れる瞬間に自分でゴミを持ち込んでいたら、元も子もないんですよね。ここは費用ゼロで今日から直せるところです。
特別な機械がなくても大丈夫、というのは本当か?
本当です。ただし、条件つきで。
**測定器の値打ちは、「見えないものを数字にすること」**にあります。だから、あれば当然強い。振動計も油の分析も、確実に精度を上げます。
でも、初期の異常の多くは、五感で拾える範囲に出ます。 そして、そもそも五感で拾う習慣がない現場に測定器を入れても、数字を取るだけで終わります。値を見ても、異常かどうか判断できないから。
順番はこうです。
- 五感で見る習慣をつくる(費用ゼロ)
- 記録して、比べられるようにする(費用ゼロ)
- どうしても判断がつかない箇所だけ、測定器を足す
これ、システム導入とまったく同じ構造なんですよ(Excelでやっていた集計を、自動化する最初の一歩)。手元を整えてから、道具を足す。 順番を飛ばすと、道具が生きません。
いちばん大事なのは「記録して比べる」こと
さて、今日いちばん伝えたいのはここです。
音も熱も油も、単発で見ても、ほとんど意味がありません。 「今日の音が高い」と言っても、比べる相手がなければ判断できない。
だから、記録します。 そして、記録の書き方に肝があります。
やってはいけない記録
異音:なし 温度:異常なし 油:OK
これ、何も残っていません。「異常なし」は、判断であって、事実ではないんです。次の人が読んでも、去年と比べられません。
残る記録
音:起動時にわずかに高い音。定常後は消える 温度:軸受部、手で3秒触れる程度。隣の同型機とほぼ同じ 油:前回よりやや黒い。異物なし。粘りは変化なし
状態そのものを書く。 判断は後からでもできますが、事実は後から取り戻せません。
そして、書いた記録を並べて見る時間を、月に1回でいいので作ってください。3か月分並べれば、悪化しているのか、安定しているのかが見えます。この作業が、予知保全の本体です。
紙の記録でも構いませんが、電子になっていると比較が一瞬でできます。手書きの点検表を電子にする話は手書き伝票をAIで読み取るがそのまま応用できますし、保全コストの考え方は機械の保全コストを簡単に下げられる方法に書きました。
予兆に気づいたら、いつ止めるか?
最後に、実務でいちばん重い判断について。
「気づいたけど、生産中だから止められない」——これが現実です。だから、先に決めておくしかありません。
たとえば、こう決めておく。
- 黄色の状態(いつもと違うが、程度は軽い)→ 記録を残し、点検の頻度を上げる。次の停止機会に確認する。
- 赤の状態(明らかな異音、床への振動、油に異物)→ 次の段取り替えのタイミングで必ず止める。
- 即停止(焦げた匂い、急な温度上昇、大きな異音)→ その場で止める。
線を先に引いておくと、現場が判断できます。 線がないと、毎回「社長に聞かないと」になり、結局後回しになる。任せ方の技術としては幹部が育たない理由。任せ方の技術と同じ話です。
止めるコストは見えやすく、止めなかったコストは見えにくい。でも、突然止まったときの損失——生産の穴、納期の遅れ、修理の緊急対応——のほうが、たいてい大きいんですよ。
今日やること:1台選んで、音と温度と油を「言葉で」記録する
今日は、測定器を買わなくていいです。点検表を作り直さなくてもいい。
いちばん止まったら困る機械を、1台選んでください。 そして、今日の状態を、紙にこう書きます。
日付: 音:(どんな音か。高い/低い/周期的な音の有無) 触った温度:(どこが、どのくらい。比べた相手も書く) 油:(色・粘り・異物・匂い) 振動:(床に伝わるか。手で感じるか)
「異常なし」とは書かないでください。 状態を書く。
そして、この紙を機械の横に貼って、来週も同じことを書く。2回目から、この記録は価値を持ち始めます。
機械は、壊れる前に必ず何かを伝えています。聞く準備さえあれば、たいてい間に合う。大げさな設備投資より、比べられる記録のほうが効くこと、けっこうあるんですよ。
まずは1台、1枚から。応援しています!
よくある質問
設備の故障は、事前に気づけるものですか?
多くの場合、気づけます。回転機械や油を使う設備は、壊れる前に音・振動・熱・油の状態のいずれかに変化が出ます。特別な測定器がなくても、いつもと違うかどうかを人の五感で拾える段階があるため、日常点検の設計次第で突然停止はかなり減らせます。
測定器がなくても予兆は分かりますか?
分かります。耳で音の高さや周期の変化を聞く、手のひらで温度を比べる、油の色と粘りを見る、床から伝わる振動を感じる。この4つで初期の異常はかなり拾えます。重要なのは絶対値を測ることではなく、前回と比べて変わったかどうかを見ることです。
点検記録をつけても、うまく異常を見つけられません。
「異常なし」だけを記録していると、変化が読めないためです。音の高さ、油の色、触った温度など、状態そのものを言葉や数字で残してください。前回の記録と比べられる形になっていれば、悪化の傾向が見え、止まる前に手を打てるようになります。
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