これが、機械を健康にする方法だ
最初の記事なので、トライボロジーについて簡単に説明します。
トライボロジーとは、ザックリいうと、摩擦・摩耗・潤滑にかかわる技術と考えて下さい。
また、機械設備の状態診断として行われる油分析、あるいは、潤滑油診断として使われる技術でもあります。
潤滑油診断とは?油から機械の健康状態を知る「血液検査」
潤滑油診断は、機械の油(潤滑油や作動油など)の性能や汚れぐあいにくわえて、油に含まれる目に見えない小さな異物を調査し、機械の状態を知ることに優れています。
そして、油を分析して機械の健康状態を知ることから、人の血液検査にたとえることができます。
血液検査は、本人が自覚していない病気のきざしを、血液中の成分などから評価し、適切に処置することで、病気にかからずに健康で長生きするために行いますよね。
これが、予防医療です。
一方、潤滑診断は、機械の作動状況からでは分からない不具合のきざしを、油中の成分などから評価し、適切に対処することで、機械が故障することなく長期にわたって性能をたもつために行います。
これを、予防保全といいます。
潤滑油診断は、機械をばらす必要がないため機会損失もなく、点検コストも下げることができるので、近年、その適用がひろがっています。
具体的にどれくらいコストが下がるのかは、機械の保全コストを簡単に下げられる方法をご存じですか?で事例をまじえて紹介しています。
油の入れ替えのとき、軍手をしていませんか?
診断の話をしましたが、その前に、油そのものをきれいに保つという、もっと手前の話をさせてください。
これ、意外と知られていないんですが、機械の油(潤滑油、作動油、グリース)を入れ替える更油のとき、軍手をしたまま実施しているケースを、現場でよく見かけます。
作業だから手袋をする。ごく自然なことですよね。ところが、軍手には、塵埃や金属粉といったゴミが多量についていることが多いんです。
目に見えないゴミが、なぜ機械を傷めるのか
厄介なのは、このゴミが目に見えないことです。
軍手を見ても、汚れているようには見えない。手も汚れない。だから「きれいなつもり」で作業してしまう。でも、油に入ったゴミは、こういう悪さをします。
① 摩擦面が傷つく
油の役目は、金属と金属のあいだに入りこんで、直接こすれ合わないようにすることです。そこに硬い粒が混ざるとどうなるか。サンドペーパーを挟んで機械を回しているようなものなんですよ。摩擦面が傷ついて、そこからまた摩耗粉が出て、油はさらに汚れていく。悪循環です。
② パッキンの隙間に紛れ込んで、油が漏れる
もうひとつが油漏れです。ゴミがパッキンの隙間に紛れ込むと、そこが密閉できなくなる。すると油がにじみ、漏れる。
床が油まみれの工場で、パッキンだけを何度も交換している——こういう場合、原因はパッキンではなく、中に入ってしまったゴミのほうかもしれません。部品を替えても、汚れた油をそのまま使っていれば、また同じことが起きます。
では、どうすればいいのか
やることは、拍子抜けするほど単純です。
- できれば素手で実施する。 油に触れるのはイヤかもしれませんが、目に見えないゴミを持ち込まないという意味では、これがいちばん確実です。
- 使用済みの軍手は論外です。 一度でも現場で使った軍手には、金属粉や塵埃が確実に付いています。「まだ使えるから」で油の作業に回さないでください。
- 給油口まわり、容器の口、じょうごも同じ発想で見る。 手袋だけの問題ではありません。油に触れるものは全部、ゴミの入口だと考える。
せっかく良い油を入れても、入れる瞬間に汚してしまっては意味がないんですよね。分析も診断も、この手前の作業が雑だと効きが悪くなります。
お金は1円もかかりません。今日から変えられます。
摩擦がなくなったら、鉛筆で字も書けない
トライボロジーについて、もう少しイメージがわくように、ノーベル賞物理学者の故小柴先生の逸話を紹介します。
あるとき中学校で
「この世に摩擦というものがなくなったらどうなるか。記せ。」
という試験問題をだしたそうです。
正解は「白紙答案」。
摩擦がなければ鉛筆の先が滑って紙に字は書けないからと説明されたそうです。
ひとは朝起きてから寝るまで、摩擦・摩耗・潤滑にお世話になることなくして生活はなりたちません。
あさ目覚めたときの布団の感触、顔をあらう、歯を磨く、食事をとる、服を着る、靴をはき歩く、などなど、全て摩擦・摩耗・潤滑のお世話になっています。
つまり、毎日トライボロジーとともに暮らしているというわけです。
トライボロジーはクレームを未然に防ぐ武器になる
つぎに、トライボロジーの効用についてもう少し説明しましょう。
製造品にクレームがでたとき、再発防止と品質アップのために原因の究明と対策を行うと思います。
そのさい、表面上の現象だけをとらえると、その場しのぎの対策になってしまい、再発の可能性があります。
そこで、トライボロジーの出番です。
たとえば、ベアリングの摩耗によって機械の機能が低下したことが、クレームの根源だとします。
トライボロジーをもちいれば、摩耗が進む前の段階で見つけることが可能です。
つまり、トライボロジーは、クレームを未然に防ぐ武器になるということです。
なお、ビッグデータや機械学習で機械の状態をつかもうとするときにも、この物理モデルの考え方が効いてきます。その話は機械学習でこんな間違いをしていませんか?でくわしく書きました。
空気のようにあたりまえの存在であるトライボロジーを、機械設備にもあたりまえに適用してみてはどうでしょうか?
あわせて読みたい: ほぼ100文字 ~トライボロジーのつぶやき~
よくある質問
トライボロジーや潤滑油診断とは何ですか?
トライボロジーとは、ザックリいうと摩擦・摩耗・潤滑にかかわる技術のことです。その応用のひとつが潤滑油診断で、機械の油の性能や汚れぐあい、油に含まれる目に見えない小さな異物を調べて機械の状態を知ります。油から健康状態を読みとるので、人の血液検査にたとえられます。
機械は壊れてから直せばよいのではありませんか?
血液検査が自覚のない病気のきざしを見つけて健康で長生きするための予防医療であるように、潤滑油診断は機械の作動状況からは分からない不具合のきざしを見つける予防保全です。表面上の現象だけを見て対処すると、その場しのぎになり再発する可能性があります。
小さな会社にとって、どんなメリットがありますか?
潤滑油診断は機械をばらす必要がないため、設備を止めることによる機会損失がなく、点検コストも下げられます。たとえばベアリングの摩耗が原因のクレームなら、摩耗が進む前の段階で見つけることが可能です。つまりクレームを未然に防ぐ武器になります。
更油(油の入れ替え)のとき、軍手をしたまま作業してよいのですか?
できれば素手で実施してください。軍手には塵埃や金属粉といった目に見えないゴミが多量についていることが多く、それが油に混入すると摩擦面を傷つけたり、パッキンの隙間に紛れ込んで油漏れの原因になったりします。とくに使用済みの軍手を着けたままの作業は避けてください。
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