値上げ後にやるべきフォロー。単価と客数を同時に見る
結論から、いきます。 値上げは、実行した日がゴールではありません。むしろ、そこからの3ヶ月がすべてです。
なぜなら売上は、こういう掛け算だから。
売上 = 単価 × 客数 × 頻度
単価だけ上げても、客数か頻度がその分落ちれば、売上は1ミリも動きません。上げたのに何も変わらない——この現象の正体は、たいていこれです。今日は、値上げ後に何をどう見るかを丸ごと渡します。
「値上げして終わり」がいちばん危ない理由は?
値上げは、精神的にかなりしんどい作業です。文書を作り、頭を下げ、断られ、また出す。やり切ったら、もう見たくない。その気持ち、本当によく分かります。
でも、見ないと何が起きるか。
- 客数が静かに減っているのに気づかない
- 「なんとなく売上は前と同じくらい」で安心してしまう
- 半年後に「あれ、去年より苦しい」と気づく
いちばん怖いのは2番目です。売上の合計額だけ見ていると、単価が上がって客数が減った状態は、「変わっていない」ように見えてしまう。中で何が起きているか、まったく分かりません。
売上は結果です。結果だけ見ても、次の手は打てません。
見るのは売上ではなく、3つの掛け算
だから、毎月この3つを同じ紙の上に並べます。
| 数字 | 出し方 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 単価 | 売上 ÷ 件数(または客数) | 値上げが実際に効いているか |
| 客数 | その月の取引先数・来店客数 | 誰かが離れていないか |
| 頻度 | 件数 ÷ 客数 | 1人あたりの利用が減っていないか |
大事なのは、バラバラに見ないこと。単価だけ見れば「上がった、成功だ」。客数だけ見れば「減った、失敗だ」。並べて初めて、意味が分かります。
そして、いちばん見落とされるのが頻度です。値上げに対して、お客さんは「やめる」より先に「回数を減らす」で反応することが多い。月2回が月1回になる。これは客数には現れません。静かに、しかし確実に売上を削ります。
(自社の数字をどう並べるかで迷ったら、エクセルで始める売上分析に、電卓とエクセルだけでできる整理の仕方があります。)
客数が何割減るまでなら、値上げは成功なのか?
ここ、けっこう社長を安心させる話なので、ぜひ計算してみてください。客数が減っても、利益は増えていることがあるんです。
一般的な仮定で計算します。
【値上げ前】
- 売価:1,000円/原価:600円/粗利:400円
- 客数:100人 → 粗利総額 40,000円
【10%値上げ後】
- 売価:1,100円/原価:600円/粗利:500円
- 客数が10%減って90人 → 粗利総額 45,000円
売上は100,000円→99,000円と減っています。でも粗利は40,000円→45,000円で、5,000円増えている。しかも接客する相手は10人少ない。
では、何人まで減っていいのか。答えはこうです。
維持に必要な客数の割合 = 値上げ前の粗利単価 ÷ 値上げ後の粗利単価
この例なら 400 ÷ 500 = 0.8。つまり客数が20%減るまでは、利益は減らない。
これ、知っているかどうかで値上げ後の心の持ちようがまったく変わります。数人離れただけで「失敗した」と青ざめて撤回する——いちばんもったいないパターンです。撤回した価格を再び上げるのは、最初の値上げの何倍も大変ですから。
(そもそも上げ幅が足りているかは原価が上がった分だけ値上げしても、利益は戻らない理由で確かめてください。同額転嫁だと、この計算の前提から崩れます。)
落ちた客数の「中身」を見ていますか?
数だけ見ても、判断はできません。誰が離れたかが本番です。
離れた顧客のリストを作って、こう仕分けてください。
A. 離れて問題ないお客さん
- 作るほど・売るほど赤字だった取引
- 毎回値切ることが会話のすべてだった相手
- 手間の割に金額が小さく、他の納期を圧迫していた仕事
この層が抜けたなら、それは損失ではなく整理です。空いた時間と手が、残ってくれたお客さんに回ります。
B. 離れてはいけなかったお客さん
- 上位の取引先
- 長く安定して発注してくれていた層
- 紹介をくれていた人
ここが抜けたなら、値上げ幅の問題ではなく伝え方の問題であることが多いです。特に「一斉告知で初めて知った」は致命傷になります。この層が離れる会社と離れない会社の違いは値上げでお客さんが減る会社と、減らない会社の違いにまとめました。
C. 減ったのではなく、遠のいた人
- 取引が止まったわけではないが、頻度が落ちた
いちばん気づきにくく、いちばん取り戻しやすい層です。ここは早く声をかけるほど戻ります。兆候の見つけ方は離れていく常連さんは、データで”事前に”気づけるに具体的な手順があります。
Bが1件でもあったら、電話してください。 値段の話ではなく、「最近いかがですか」でいい。値上げ後の1本の電話は、値引きより効きます。
3ヶ月フォローシートは、どう作る?
難しくしないでください。A4一枚、エクセル1シートで十分です。
【毎月、この6行を埋めるだけ】
| 項目 | 値上げ前(平均) | 1ヶ月目 | 2ヶ月目 | 3ヶ月目 |
|---|---|---|---|---|
| 売上 | ||||
| 客数 | ||||
| 単価(売上÷件数) | ||||
| 頻度(件数÷客数) | ||||
| 粗利総額 | ||||
| 離れた先(社名・人数) |
見るときのルールは3つ。
- 1ヶ月目で判断しない。 直前の駆け込みや反動で、数字は必ず乱れます。1ヶ月目は「記録するだけ」。
- 判断は粗利総額でする。 売上ではありません。客数でもありません。粗利総額が増えていれば、値上げは成功です。
- 最終行を必ず埋める。 離れた先の名前を書く欄があるだけで、「なんとなく減った」で終わらなくなります。
そして、3ヶ月目に粗利総額が増えていたら——**次の一手は「客数を戻す」ではなく「頻度を上げる」**です。単価が上がった状態で頻度が戻ると、伸び方が変わります。値札を触らずに単価と頻度を上げる型は値上げせずに”客単価”を上げる。今日からできる4つの型にまとめてあります。
ついでに、値上げ後にやってはいけない3つのこと
最後に、ブレーキだけ置いておきます。
① 一部の相手にだけ、こっそり元の値段に戻す
いちばんやりがちで、いちばん危険。必ず伝わります。伝わった瞬間、きちんと受け入れてくれた人が損をした形になり、信頼が消えます。どうしても調整が必要なら、価格ではなく数量や納期などの条件で。
② 客数が減った不安から、別の値引きを始める
値上げして、キャンペーンで割る。差し引きゼロどころか、**「待てば安くなる会社」**という学習を与えてしまいます。値引きが利益をどう溶かすかは安売りが利益を”溶かす”仕組みで数字にしてあります。
③ 3ヶ月見ずに撤回する
一度戻した価格を、もう一度上げるのは本当に大変です。判断は3ヶ月目の粗利総額を見てから。 それまでは、ただ記録する。
今日やること
今日は1つだけ。A4を1枚出して、6行の表の枠を書いてください。
売上・客数・単価・頻度・粗利総額・離れた先。枠だけでいい。数字は今日入らなくてOKです。
枠がある紙は、埋まります。枠がない数字は、集まりません。それだけの話です。壁に貼って、月末に埋める。3ヶ月後、あなたは「なんとなく」ではなく事実で値上げの成否を語れるようになります。
値上げは、勇気を出した時点で半分成功しています。残り半分は、見るだけ。応援しています!
よくある質問
値上げ後は、何の数字を見ればいいですか?
「単価」「客数」「購入頻度」の3つを、毎月同じ紙の上に並べて見てください。売上はこの3つの掛け算なので、単価だけ上がっても客数や頻度が落ちれば元に戻ります。売上の合計額だけを見ていると、中で何が起きているか分かりません。
値上げ後にお客さんが減ったら、値上げを撤回すべきですか?
客数だけで判断しないでください。見るのは粗利の総額です。単価が上がれば1件あたりの粗利も増えるので、客数が減っても粗利総額が増えていれば成功です。撤回は最後の手段で、一度戻した価格は次に上げるのが非常に難しくなります。
値上げ後のチェックは、どれくらいの期間続ければいいですか?
最低3ヶ月です。値上げ直後の1ヶ月目は駆け込み需要や反動で数字が乱れやすく、判断材料になりません。3ヶ月並べて初めて傾向が見えます。既存客との取引が長い商売では、6ヶ月見ておくとより確かです。
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