原価と同じ額だけ値上げすると、利益が減る理由
結論から、いきます。 原価が20円上がったから売値も20円上げた——それ、**粗利の「金額」は守れています。**でも苦しさが消えないなら、理由は別のところにあります。上がったのは、原価だけではないからです。
同じだけ上げたのに楽にならないのは、あなたの気のせいでも努力不足でもありません。算数がそうなっているんです。
今日は、その仕組みと「じゃあいくら上げればいいのか」を、電卓ひとつでできる形で丸ごと渡します。
なぜ「上がった分だけ上げる」では、苦しいままなのか?
多くの社長が、コスト上昇にこう対応します。
「仕入れが20円上がった。だから売値も20円上げよう。それで元通りだ」
すごく誠実な考え方です。お客さんにも説明しやすい。そして、粗利の「金額」はこれで守れます。 ここは、間違っていません。
問題は、上がっているのが仕入れだけではないことです。
人件費が上がった。電気代が上がった。運賃も、保険料も上がった。これらは売った数に関係なく出ていくお金です。粗利の金額が去年と同じなら、増えた分だけ、まるごと営業利益から引かれます。
同額転嫁は「守り」であって、「取り返し」ではない。 ここが今日の要点です。
数字で見てみましょう(原価100円が120円になったとき)
たとえば、こんな商品があるとします。あくまで一般的な仮定の数字です。
【値上げ前】
- 売価:150円
- 原価:100円
- 粗利:50円
- 月の販売数:1,000個 → 粗利の合計:月5万円
ここで原価が120円に上がりました。同額転嫁で、売価も20円上げて170円にします。
【同額転嫁したあと】
- 売価:170円
- 原価:120円
- 粗利:50円(変わらない)
- 月の販売数:1,000個 → 粗利の合計:月5万円(変わらない)
粗利は守れています。 金額でも、合計でも、去年と同じです。
ところが同じ期間に、パートさんの時給と電気代で固定費が月2万円増えていたとします。
すると、こうなります。
| 去年 | 同額転嫁したあと | |
|---|---|---|
| 粗利の合計 | 5万円 | 5万円(同じ) |
| 固定費 | 4万円 | 6万円(+2万円) |
| 営業利益 | 1万円 | ▲1万円(赤字) |
粗利は1円も減っていないのに、赤字になりました。 これが「上げたのに楽にならない」の正体です。
本当に必要な値上げ額は、いくらか?
答えはシンプルです。原価の上昇分に加えて、増えた固定費も回収する。
必要な値上げ額 = 原価の上昇額 +(増えた固定費 ÷ 販売数量)
さっきの例なら、原価の上昇が20円。増えた固定費2万円を月1,000個で割ると20円。合わせて40円です。
- 売価:190円
- 原価:120円
- 粗利:70円 → 月7万円
- 固定費:6万円
- 営業利益:1万円(去年と同じ)
原価は20円しか上がっていないのに、必要な値上げは40円。ここが今日いちばん持って帰ってほしいところです。
販売数量が分からなければ、ざっくりで構いません。**「増えた固定費を、年間の販売数で割る」**だけです。1個あたり何円を上乗せすれば足りるのかが出ます。
| 増えた固定費(月) | 月の販売数 | 原価上昇20円に上乗せする額 |
|---|---|---|
| 1万円 | 1,000個 | +10円(計30円) |
| 2万円 | 1,000個 | +20円(計40円) |
| 2万円 | 500個 | +40円(計60円) |
販売数が少ない会社ほど、1個あたりに乗せる額は大きくなります。 直感と逆に感じるかもしれませんが、固定費は売れても売れなくても出ていくので、こうなります。
「粗利率が下がる」のは、悪いことなのか?
ここで、よく聞かれることに答えておきます。
同額転嫁をすると、粗利の金額は同じでも、売価が上がるぶん粗利率は下がります(33.3% → 29.4%)。これを見て「率が落ちた、まずい」と考える人は多い。
でも、率そのものを守ることが目的ではありません。
家賃も、給料も、借入の返済も、率ではなく金額で出ていきます。 手元に残るのは額です。率ではありません。
分かりやすいのが、他社に紹介してもらって売る場合です。手数料を払うので、粗利率は必ず下がります。 それでも、自社だけでは半年かけて100個しか売れなかったものが、相手の顧客に一斉に届いて1,000個売れたら、粗利の金額は何倍にもなります。
この考え方は小さな会社こそ「他人のふんどし」で相撲を取れ!に、数字つきで書きました。率を惜しんで、額を取り逃がす——これがいちばんもったいない失敗です。
率は、健康診断の数値のようなものです。 下がったら「なぜ下がったのか」を調べる入口になる。そこは役に立ちます。
- 値引きが増えていないか → 安売りが利益を”溶かす”仕組み
- 利益の薄い商品ばかり売れていないか → 決算書のどこを見れば、うちの弱点が分かるのか
下がった理由が「額を増やすための投資」なら、それは正しい判断です。 手数料も、外注も、広告も同じです。率を見て安心するのではなく、額が増えたかで判断してください。
「そんなに上げられない」と感じたときは?
40円上げろと言われて、素直に「はい」と言える社長はいませんよね。分かります。だから、現実的な打ち手を並べておきます。
1. 全商品でやろうとしない。 先に手をつけるべきは、主力商品と、いま赤字に近い商品です。全品目を一律で上げようとすると、根拠がぼやけて全部止まります。どれから手をつけるかの選び方は値上げする商品はデータで選ぶに、感覚に頼らない手順があります。
2. 一度で戻そうとしない。 今回は同額転嫁、半年後にもう一段——と刻んでも構いません。大事なのは「同額で済んだと思い込まない」こと。足りていないと知ったうえで刻むのと、足りたと勘違いするのは、まったく別物です。
3. 値札以外で額を増やす。 最低ロットの見直し、短納期対応の廃止、過剰な梱包や検査の削減。売価を触らずに原価を下げれば、1個あたりの粗利額が増えます。値札に触らずに単価を上げる型は値上げせずに”客単価”を上げる。今日からできる4つの型にまとめてあります。
4. 売る数を増やす道も、同時に考える。 1個あたりで取り返せないなら、数で取り返すという手があります。率が下がっても構いません。他人のふんどしで相撲を取れ!は、まさにその発想です。
5. 根拠を持って交渉する。 取引先が相手なら、必要なのは根性ではなく資料です。何を持っていけば通るのかは価格転嫁できない中小企業へ。通る交渉の持ち物に、持ち物リストごと置いてあります。
そして、伝える文書の型は取引先に価格改定を伝える文書の書き方にそのまま使える例文を載せました。
今日やること
今日は1つだけ。去年と比べて、毎月出ていく固定費がいくら増えたかを出してください。
家賃、人件費、電気代、保険料、リース料。去年の月平均と、今の月平均の差だけで構いません。電卓で1分。
出たら、その数字でこう計算します。
増えた固定費 ÷ 月の販売数 = 1個あたり、上乗せが必要な額
これに原価の上昇分を足したものが、本当に必要な値上げ額です。実際に上げた額と見比べてください。差があったなら、あなたはまだ値上げの途中だっただけ。値上げが下手だったわけでも、努力が足りなかったわけでもありません。
数字は、責めてきません。ただ「あと20円だよ」と教えてくれるだけです。大丈夫、まだ間に合います。応援しています!
よくある質問
原価が上がった分と同じ金額だけ値上げすれば、利益は元に戻りますか?
粗利の「金額」は元に戻ります。売価150円・原価100円の商品で原価が120円になり売価を170円にすれば、粗利は50円のまま変わりません。問題は、上がったのが原価だけではないことです。人件費も電気代も運賃も上がっているなら、粗利の金額が同じままでは、固定費の増加分だけ営業利益が減ります。
では、いくら値上げすればいいのですか?
「原価の上昇額 + 増えた固定費 ÷ 販売数量」が目安です。原価が20円上がり、家賃や人件費が月2万円増えて、月1,000個売っているなら、20円+20円=40円。原価の上昇分だけを乗せる同額転嫁では、固定費の増加分が丸ごと利益から引かれます。
粗利率が下がるのは、悪いことですか?
率だけでは判断できません。見るべきは、手元に残る金額です。たとえば他社の顧客に紹介してもらい、手数料を払って売る場合、粗利率は必ず下がります。それでも販売数が10倍になれば、粗利の金額は大きく増えます。率は健康診断の数値のようなもので、下がった理由を確かめる入口です。率そのものを守ることが目的ではありません。
率と額、どちらを見ればいいのですか?
額です。家賃も給料も借入の返済も、率ではなく金額で出ていきます。率は「なぜ額が変わったのか」を調べるための道具として使ってください。率が下がっても額が増えているなら、その判断は正しかったということです。
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