原価が上がった分だけ値上げしても、利益は戻らない理由

原価が上がった分だけ値上げしても、利益は戻らない理由

結論から、いきます。 原価が20円上がったから売値も20円上げた——それ、粗利の「金額」は守れていますが、「率」は下がっています。同じだけ上げたのに苦しさが消えないのは、あなたの気のせいでも努力不足でもありません。算数がそうなっているんです。

今日は、その仕組みと「じゃあいくら上げればいいのか」を、電卓ひとつでできる形で丸ごと渡します。

なぜ「上がった分だけ上げる」では戻らないのか?

多くの社長が、コスト上昇にこう対応します。

「仕入れが20円上がった。だから売値も20円上げよう。それで元通りだ」

すごく誠実な考え方です。お客さんにも説明しやすい。でも、これだと元通りにはなりません。

理由はシンプルで、利益は「金額」と「率」の2つで見る必要があるからです。同額を上乗せすると金額は守れますが、分母(売価)が大きくなるぶん、率は必ず下がります。

そして会社を苦しくするのは、たいてい率のほうです。

数字で見てみましょう(原価100円が120円になったとき)

たとえば、こんな商品があるとします。あくまで一般的な仮定の数字です。

【値上げ前】

  • 売価:150円
  • 原価:100円
  • 粗利:50円
  • 粗利率:33.3%

ここで原価が120円に上がりました。同額転嫁で、売価も20円上げて170円にします。

【同額転嫁したあと】

  • 売価:170円
  • 原価:120円
  • 粗利:50円(変わらない!)
  • 粗利率:29.4%(下がった)

粗利は50円のまま。一見、守れています。でも率は33.3%から29.4%へ、約4ポイント落ちています

これが「上げたのに楽にならない」の正体です。しかも現実には、上がっているのは仕入れだけじゃない。人件費も、電気代も、運賃も上がっている。率が落ちた状態でそれを吸収しようとするから、じわじわ苦しくなるんです。

粗利率を守るには、いくら上げればいい?

では、粗利率33.3%を維持するには、いくらにすればいいのか。答えは180円です。

  • 売価:180円
  • 原価:120円
  • 粗利:60円
  • 粗利率:33.3%(元通り)

原価は20円しか上がっていないのに、必要な値上げは30円。ここが今日いちばん持って帰ってほしいところです。

計算式にすると、こうなります。

必要な値上げ額 = 原価の上昇額 ÷ 現在の原価率

さっきの例なら、原価率は100÷150=約67%。だから 20 ÷ 0.67 = 約30円

もうひとつ、原価率が50%の商品(売価200円・原価100円)でやってみましょう。原価が120円に上がったとき、必要な値上げは 20 ÷ 0.5 = 40円。売価は240円です。20円ではまるで足りません。

法則としては、こうです。

現在の原価率原価が20円上がったとき、必要な値上げ額
80%25円
67%約30円
50%40円
33%約60円

原価率が低い商品ほど、率を守るために大きく上げる必要がある。 直感と逆に感じる人が多いはずです。でも、これが算数の答えです。

粗利率が下がると、会社に何が起きる?

「率が数ポイント下がったくらい、いいじゃないか」——そう思いたくなりますよね。でも、率はボディブローのように効いてきます。

① 同じ利益を稼ぐのに、もっと売らないといけなくなる

粗利率33.3%なら、粗利100万円を作るのに売上は約300万円。29.4%なら、約340万円必要です。同じ手取りのために、40万円ぶん余計に働くということ。忙しいのに残らない会社は、たいていここです。

② 値引きの痛みが跳ね上がる

粗利率が低いほど、1%の値引きが利益に与えるダメージは大きくなります。この仕組みは安売りが利益を”溶かす”仕組みに数字で書きました。率が下がった状態での安売りは、本当に危険です。

③ 次のコスト上昇に耐えられなくなる

いちばん怖いのはこれ。粗利率は会社の体力です。体力が減った状態で次の値上げ波が来ると、今度は同額転嫁すらできなくなる。そうやって「気づいたら利益が消えていた」会社を、本当によく見ます。

「そんなに上げられない」と感じたときは?

30円上げろと言われて、素直に「はい」と言える社長はいませんよね。分かります。だから、現実的な打ち手を並べておきます。

1. 全商品でやろうとしない。 率を守るべきなのは、主力商品と、いま赤字に近い商品です。全品目を一律で上げようとすると、根拠がぼやけて全部止まります。どれから手をつけるかの選び方は値上げする商品はデータで選ぶに、感覚に頼らない手順があります。

2. 一度で戻そうとしない。 今回は同額転嫁、半年後にもう一段——と刻んでも構いません。大事なのは「同額で済んだと思い込まない」こと。足りていないと知ったうえで刻むのと、足りたと勘違いするのは、まったく別物です。

3. 値札以外で率を戻す。 最低ロットの見直し、短納期対応の廃止、過剰な梱包や検査の削減。売価を触らずに原価を下げれば、率は戻ります。値札に触らずに単価を上げる型は値上げせずに”客単価”を上げる。今日からできる4つの型にまとめてあります。

4. 根拠を持って交渉する。 取引先が相手なら、必要なのは根性ではなく資料です。何を持っていけば通るのかは価格転嫁の交渉、何を持っていけば通るのかに、持ち物リストごと置いてあります。

そして、伝える文書の型は取引先に価格改定を伝える文書の書き方にそのまま使える例文を載せました。

今日やること

今日は1つだけ。いちばん売れている商品の「原価率」を出してください。

原価 ÷ 売価。それだけです。電卓で10秒。

出たら、その数字でこう計算します。

今、原価がいくら上がった? ÷ さっき出した原価率 = 本当に必要な値上げ額

その答えと、実際に上げた額を見比べてください。差があったなら、あなたはまだ値上げの途中だっただけ。値上げが下手だったわけでも、努力が足りなかったわけでもありません。

数字は、責めてきません。ただ「あと10円だよ」と教えてくれるだけです。大丈夫、まだ間に合います。応援しています!

よくある質問

原価が上がった分と同じ金額だけ値上げすれば、利益は元に戻りますか?

粗利の「金額」は元に戻りますが、「率」は下がります。たとえば売価150円・原価100円(粗利率33%)の商品で、原価が120円になり売価を170円にすると、粗利は50円のままでも粗利率は29%に落ちます。同じ売上を作っても、手元に残る割合が減っている状態です。

粗利率を維持するには、いくら値上げすればいいですか?

目安は「原価の上昇額 ÷ 現在の原価率」です。売価150円・原価100円なら原価率は約67%なので、原価が20円上がったときに必要な値上げは20÷0.67=約30円。同額の20円ではなく、30円上げて初めて元の粗利率に戻ります。

粗利率が下がると、具体的に何が困るのですか?

次のコスト上昇に耐えられなくなります。粗利率が低いほど、同じ利益額を稼ぐのに多くの売上が必要になり、値引き1%の痛みも大きくなります。粗利率は「会社の体力」で、下がったことに気づかないまま数年経つと、忙しいのに残らない状態が固定化します。

小さな会社の売上アップ・利益改善のご相談を承っています。

お問い合せはこちら