AI導入にいくらまで出していいか。相場ではなく人件費から決める

AI導入にいくらまで出していいか。相場ではなく人件費から決める

結論から、いきます。**AI導入の「相場」を調べても、自社がいくら出していいかは決まりません。**相場は売る側の値段です。決めるのは、今その作業に人件費がいくらかかっているかのほうです。

「AIを入れたいけど、いくらくらいが普通なんだろう」——これ、検索するとたくさん出てきます。50万円、100万円、月額◯万円。

でも、**その数字を見ても判断できないですよね。**高いのか安いのか分からないから。

分からないのは当たり前です。判断の基準が、自社の中にあるからです。

今日は、その基準の作り方を丸ごと置いていきます。電卓だけでできます。

なぜ「相場」で決めてはいけないのか

同じツールでも、会社によって出していい額は10倍違います。

たとえば請求書の作成を自動化するとします。

A社B社
その作業にかかる時間20時間2時間
担当者の時間単価2,000円2,000円
年間の人件費48万円4.8万円

A社が50万円払うのは合理的です。1年ちょっとで回収できます。 B社が同じ50万円を払うと、回収に10年かかります。

同じ「50万円」でも、意味がまったく違う。相場という数字には、この違いが入っていません。

いくらまで出していいか、どう計算するのか

3つ数えるだけです。

① その作業に、月何時間かかっているか

ストップウォッチは要りません。担当者に「これ、月にどれくらいですか」と聞いてください。**「だいたい」で構いません。**ここで精度を追うと、計算する前に疲れます。

② その人の時間単価

時間単価 = 年収 ÷ 年間労働時間

年収400万円で年2,000時間なら、2,000円です。社会保険の会社負担があるので、実際は1.15〜1.2倍して見てください。上の例なら2,300〜2,400円。

③ 何年で回収するか

2年以内をおすすめします。

3年を超える計画は、その前にツールの仕様が変わるか、業務そのものが無くなります。生成AI関連は特に動きが速くて、2年前の前提がもう残っていないことも普通にあります。

この3つで、上限が出ます。

出していい上限 = 月の時間 × 12 × 時間単価 × 回収年数

先ほどのA社なら、20時間 × 12 × 2,300円 × 2年 = 110万円

この会社は、110万円までなら出していい。110万円を超える提案が来たら、値段の問題ではなく合っていないということです。

「時間が減る」と「お金が減る」は別です

ここ、いちばん間違えやすいところです。

月20時間が浮いたとしても、その20時間ぶんのお金が手元に残るとは限りません。

どうなるかお金は
残業が20時間減った残業代のぶんだけ減る(割増があるので単価は高い)
定時内の作業が20時間減ったすぐには減らない。空いた時間に何をするか次第
その人が1人減らせる人件費まるごと減る(ただし現実にはまれ)

**多いのは真ん中です。**時間は浮いたけれど、給料は変わらない。

これ、失敗ではありません。浮いた時間で何をするかを、先に決めておけばいいだけです。

  • 訪問件数を増やす
  • 見積のスピードを上げる
  • 今まで手が回らなかった既存客のフォローに回す

**「浮いた時間の使い道」が先に決まっていない自動化は、たいてい数字に出ません。**道具のせいではなく、そこが決まっていないからです。

計算したら赤字だった。それ、いい結果です

やってみると、思ったより小さい数字になることが多いです。

「月20時間かかってると思ってたけど、聞いてみたら8時間だった」というのは、よくあります。すると上限は44万円まで下がる。

そこで「やめておこう」と決まったなら、それは成功です。

何十万円か払って、期待した効果が出なくて、しかも誰も使わずに終わる——という失敗を、計算だけで避けられたということですから。

私も、費用対効果が合わないと判断したものは「やらないほうがいい」とお伝えしています。入れること自体が目的になった瞬間に、たいてい失敗します。

じゃあ、どの作業から数えるか

全部数えようとすると終わりません。次の3つが揃っている作業から見てください。

  1. 毎日か毎週、必ず発生する(月1回の作業は、効果が薄い)
  2. 形が決まっている(毎回考えて判断する仕事は向きません)
  3. 担当が一人に偏っている(その人が休むと止まる仕事)

この3つが揃っている作業は、**時間も長く、リスクも高い。**優先度が自然に上がります。

どの作業が候補になるかを洗い出す手順は、中小企業のAI導入、どこから手をつけるかに条件を3つにまとめてあります。既製品を買うか自分で作るかの分かれ目は、AIツールは既製品か、自社で作るかのほうに書きました。

今日、やること

紙に3つ書くだけです。

① いちばん時間を食っている作業:____________
② それ、月に何時間?:__________ 時間
③ 担当者の年収:__________ 万円

これで、② × 12 × (③ ÷ 2,000時間 × 1.2) × 2年 が上限です。

**その数字が出たら、はじめて見積を見てください。**先に見積を見ると、その金額が基準になってしまいます。順番が逆だと、判断できなくなります。

数字が小さくても落ち込まないでください。**小さいと分かったこと自体が、いちばん大きな成果です。**応援しています。

よくある質問

中小企業のAI導入費用の相場はいくらですか?

相場を知っても、自社がいくら出していいかは決まりません。相場は売る側が提示する値段であって、買う側の上限ではないからです。決め方は逆で、その作業に今かかっている人件費を先に出し、そこから何年で回収するかを決めて上限を引きます。同じツールでも、月20時間使っている会社と月2時間の会社では、出していい額が10倍違います。

回収期間は何年で見ればいいですか?

中小企業では2年以内をおすすめしています。3年を超える計画は、その前にツールの仕様が変わったり、業務そのものが無くなったりします。生成AI関連は特に動きが速く、2年前の前提が残っていないことも珍しくありません。2年で回収できない金額なら、その投資は今やる必要がない、と判断して構いません。

計算したら赤字になりました。やめるべきですか?

やめて構いません。むしろ、そこで気づけたことに価値があります。ただし1つだけ確認してください。削減できるのが「残業代」なのか「人が減らせる」のかで、実際に手元に残る額は変わります。残業が減るだけなら、その時間で別の売上が作れるかまで見ます。数字がプラスに変わらないなら、やらないのが正解です。

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