AIツールは既製品か、自社で作るか。判断が分かれる4つのポイント

AIツールは既製品か、自社で作るか。判断が分かれる4つのポイント

結論から、いきます。 買うか作るかの判断は、**「その業務が、うちの強みそのものかどうか」**で決まります。強みでないなら、迷わず買う。強みなら、作る価値がある。

そして、ほとんどの会社にとって、AI活用の8割は「買う」で足ります。作る側の話をする前に、まずここをはっきりさせておきたいんです。

なぜ「うちに合うツールがない」と感じてしまうのか?

「業務が特殊だから、既製品じゃ無理」——本当によく聞きます。そして、その半分くらいは、特殊なんじゃなくて“探し方”の問題なんですよ。

というのも、多くの人は**「今のやり方をそのまま再現できるか」**でツールを見ています。今の入力画面と同じ順番か、今の帳票と同じ見た目か。そりゃ、合うものは見つかりません。今のやり方は、あなたの会社が長年かけて独自に作ってきたものだから。

でも、ちょっと考えてみてください。今のやり方、本当にベストですか?

既製品が想定している流れは、たくさんの会社の標準的なやり方をもとに設計されています。それに合わせるのは、妥協じゃなくて業務の見直しになることが多いんです。

「この帳票、なぜこの順番なんですか?」「昔からです」——こういう業務、たいていの会社にあります。そこを既製品に合わせるのは、むしろ得です。

判断が分かれる4つのポイント

とはいえ、作るべき場面はあります。判断は、この4つで整理できます。

見るところ買う(既製品)作る(自社向け開発)
業務の性質どの会社でもやり方が似ている自社固有の判断ルールが中心にある
変更の頻度やり方がめったに変わらない現場に合わせて頻繁に直したい
社内の担い手いなくても運用できる触って直せる人が社内にいる
競争力との距離やっても差がつかない業務ここが自社の強みそのもの

ひとつずつ見ていきます。

① 業務が特殊か、汎用か

汎用業務は、絶対に買ったほうが安い。 これは断言していいです。

会計、給与計算、勤怠、メール、スケジュール、議事録の文字起こし、文書の下書き——このあたりは、どの会社でもやることがほぼ同じです。世の中の何万社が使っているものを、自社だけのために作る理由がありません。開発費も維持費も、まったく釣り合いません。

一方で「自社固有の判断」が業務の中心にあるものは話が変わります。たとえば、自社の見積の出し方。材料の相場、加工の難易度、その客との過去の関係、納期の余裕——これらを組み合わせて金額を決めているなら、それは既製品にはありません。それがあなたの会社の頭脳だからです。

② 変更の頻度は高いか

見落とされがちですが、これが効きます。

作ったものは、必ず後から直したくなります。100%です。「使ってみたらここが違った」「取引先が増えて条件が変わった」——現場は動いているので当然なんですよ。

このとき、直す速さがそのまま使い勝手になります。自社で作った(か、身近な人に作ってもらった)ものは、その日のうちに直せる。既製品は、要望を出しても実装されるとは限らない。

だから**「毎月のように条件が変わる業務」は、作る側に寄ります**。逆に「3年変わっていない業務」なら、買って済ませてください。

③ 社内に「触れる人」がいるか

ここが一番現実的で、一番シビアな条件です。

作ったものは、誰かが面倒を見なければ必ず死にます。エラーが出たとき、条件を足したいとき、担当者が変わったとき。そのたびに外部へ依頼が要る状態だと、そのうち誰も頼まなくなって、使われなくなります

だから、作ると決める前に確認してください。

  • 設定や条件を直せる人が、社内に1人いるか
  • その人が辞めたら、どうなるか
  • その人の作業時間は、業務時間として認められているか

3つ目、大事です。「片手間でやって」だと続きません。 属人化で詰む構造は属人化した業務を仕組みに変えると同じ話です。作る側にも、まったく同じ罠があります。

なお、生成AIのおかげでこの条件のハードルは以前より下がっています。ちょっとした集計や自動化なら、プログラミング未経験でもAIに手伝ってもらいながら形にできる範囲が広がりました。「社内に触れる人がいない」は、以前ほど絶望的な条件ではなくなっています。

現場に入れた瞬間に、想定外は起きる

作った側だから分かることを、ひとつだけ書かせてください。ツールは、現場に入れた瞬間に想定外が起きます。

実際、自分でAIツールを作ってお客さまに納品したとき、お客さまのIT環境の違いで、その場で直さないと動かない場面が出ました。正直、めちゃくちゃ焦りました。手元では完璧に動いていたものが、相手のパソコンでは動かない。IT環境は会社ごとに違うので、そこで動かしてみるまで分からないことが、どうしても残るんですよ。幸いその場で直せて事なきを得ましたが、これは「起こりうること」ではなく「だいたい起こること」だと思っておいたほうがいいです。

だから、買うにしても作るにしても、「納品されたら終わり」でスケジュールを組まないでください。 導入日はゴールじゃなくてスタートです。入れた直後に出てくる小さなズレを、誰が、どのくらいの速さで直せるのか。 ③でお伝えした「触れる人がいるか」というのは、実はこの話でもあるんです。既製品なら、サポートがどこまで面倒を見てくれるかを契約前に確認しておく。作るなら、動かし始めてからの調整を最初から予定に入れておく。それだけで、詰まり方がまるで変わります。

④ その業務は、競争力に直結しているか

最後の、そして一番深い問いです。

やっても他社と差がつかない業務に、開発費を使わないでください。 経理も勤怠も、完璧にやったところで売上は1円も増えません。ここは既製品で最低限のコストで済ませて、浮いたお金と時間を、差がつく場所に回す。

差がつく場所というのは、たとえば

  • お客さんの反応が速くなる仕組み(問い合わせから見積までの時間)
  • 自社にしかない判断を、誰でも使える形にする仕組み
  • お客さんのデータが貯まって、次の提案に効く仕組み

このあたりです。ここは既製品では届かないことが多いし、届かないからこそ差になります

「作る」の前に、必ず試すべきことは?

作ると決める前に、必ずやってほしい段階が1つあります。

無料または安価なチャット型AIで、手作業として一度回してみる。

つまり、自動化する前に「AIに手で頼んでみる」。仕分けも、下書きも、要約も、まずは手でコピペして試せます。

これをやると、3つのことが分かります。

  1. そもそもAIで精度が出るのか(出ないなら、作っても無駄)
  2. どういう指示だとうまくいくのか(これがそのまま設計図になります)
  3. 本当に毎日使うのか(1週間で飽きたら、作らなくて正解)

3つ目が一番大事です。 「作ったけど使わなかった」の大半は、この確認をせずに走っています。手作業で1か月続けられなかったものは、自動化しても続きません。

順番の全体像はExcelでやっていた集計を、自動化する最初の一歩と同じ構造です。手元で整える → 手で試す → それでも残る手間だけ仕組みにする。

費用の考え方は、どう持てばいい?

金額そのものは案件によって全然違うので、考え方だけ置いておきます。

  • 既製品は、月額 × 使う人数 × 年数で、長く使うほど積み上がる。ただし維持は相手任せ。
  • 作るのは、最初にまとまった費用が出て、あとは維持費。ただし維持は自社の責任。

判断の軸は、金額の大小ではなく**「何年使うか」**です。3年使うつもりなら、月額の合計と作る費用を並べて比べてください。1年で見直すつもりなら、迷わず買う。

そして、補助金を前提に判断しないこと。これは強くお伝えしたいです。補助金は使えれば助かりますが、「補助金が出るから作る」で始めた仕組みは、たいてい使われません。判断は自腹だったらどうするかで決めて、補助金は後から乗せる。この考え方は補助金は“もらえるお金”ではないに書いた通りです。

迷ったときの、いちばんシンプルな決め方

ここまで4つ見てきましたが、迷ったらこれだけで判断できます。

その業務を、他社に丸ごと真似されたら困るか?

  • 困らない → 買う。以上。
  • 困る → その部分だけ作る。周りは買う。

そう、全部を作る必要はまったくありません。実際にうまくいっている形は、たいてい**「既製品でだいたい回して、自社の勝負どころだけ作る」**という組み合わせです。

全部作ると、維持しきれません。全部買うと、勝負どころで詰まる。混ぜるのが正解なんですよ。

今日やること:業務を「差がつく/つかない」の2列に分ける

今日は見積を取らなくていいし、ツールを調べなくてもいいです。

紙を1枚、真ん中で縦に割ってください。 左に「他社と差がつかない業務」、右に「うちならではの業務」。思いつくまま、10個ずつくらい書き出します。

書けたら、こう見てください。

  • 左の列でいま時間を食っているもの → 既製品を探す対象です。
  • 右の列で人手に頼りきっているもの → 仕組みにする価値がある候補です。

この2列がはっきりすると、お金の使いどころが一発で分かります。買うか作るかで悩む時間より、この仕分けのほうがずっと価値があります。

どこから手をつけるかで迷ったら中小企業のAI導入、どこから手をつけるかへ。まずは紙1枚、2列から。応援しています!

よくある質問

AIツールは既製品を買うのと自社で作るの、どちらがいいですか?

業務が汎用的なら既製品が圧倒的に安く済みます。会計・給与・メール・議事録など、どの会社でもやり方が似ている業務がこれにあたります。一方、自社固有の判断ルールが業務の中心にある場合は、作る価値が出てきます。判断軸は「その業務が自社の競争力そのものか」です。

自社で作ると決める前に、確認すべきことは何ですか?

社内に「触って直せる人」がいるかどうかです。作ったものは必ず後から直す必要が出ます。直せる人が一人もいないと、小さな修正のたびに外部へ依頼が必要になり、結果として使われなくなります。作る前に、運用する人を決めておくことが不可欠です。

既製品に業務を合わせるのは妥協ではないですか?

多くの場合、妥協ではなく改善になります。既製品の想定する流れは、多数の会社の標準的なやり方をもとに作られているためです。ただし、その業務が自社の強みそのものである場合は別で、そこを既製品に合わせると競争力を削ることになります。

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