事業計画書は誰のために書くのか。銀行・補助金・自分
結論から、いきます。 事業計画書は「会社の説明書」ではありません。読み手への手紙です。だから、宛先が変われば書く中身も変わります。1本を全部に使い回すと、全員に少しずつ刺さらない、いちばんもったいない書類になります。
今日は、銀行・補助金・自分——この3人の読み手が「どこを見ているのか」を丸ごと渡します。
そもそも、事業計画書は何のための書類?
「事業計画書を作ってください」と言われると、多くの社長がまず考えるのが「うちの会社をどう説明しようか」です。
沿革を書いて、商品を書いて、強みを書いて、売上目標を書いて……。真面目な人ほど、丁寧に、分厚く作ります。
でも、ちょっと想像してみてください。その書類を最後まで読むのは、誰ですか?
読むのは、銀行の担当者かもしれない。補助金の審査員かもしれない。あるいは、来月の自分かもしれない。その3人は、まったく違うことを知りたがっています。
- 銀行:「このお金、ちゃんと返ってくるのか?」
- 補助金の審査員:「この事業は、この制度の趣旨に合っているのか?」
- 自分:「で、明日から何をやるんだっけ?」
同じ会社の話なのに、聞かれていることが全然違う。ここに気づかないまま「万能な1本」を作ろうとするから、どこにも届かない書類ができあがるんです。
あなたの文章力の問題じゃありません。宛先を決めずに手紙を書いていただけです。
銀行が読むとき、どこを見ている?
銀行が知りたいことは、身も蓋もないですが1つです。
貸したお金は、どこから、いくらずつ返ってくるのか。
だから銀行向けの計画書では、「夢」より「返済原資の道筋」を厚く書きます。順番でいうと、こうです。
- 今の実力:直近の売上・粗利・固定費・借入残高(背伸びしない)
- これから何をするか:設備を入れる/人を採る/新しい売り先を開ける、など
- それで数字がどう変わるか:売上いくら → 粗利いくら → 固定費を引いて利益いくら
- そこからいくら返せるか:年間の返済額と、その利益の関係
ここでよくある失敗が、売上だけを立派に伸ばした計画です。「3年で売上2倍」と書いてあるのに、粗利率も固定費も今のまま。読むほうからすると「根拠がない」以前に、この社長は自社の利益構造を分かっていないのではと見えてしまいます。
売上より粗利です。粗利がいくら増えるのか、そこから固定費を引いて何が残るのか。この道筋がたどれる計画書は、金額が控えめでも信用されます。
自社の粗利率や固定費の把握があいまいなら、先に決算書のどこを見れば、うちの弱点が分かるのかを読んでから書き始めるほうが、結果的に早いです。
そしてもう1つ。銀行が見ているのは計画書だけではなく、月々のお金の動きでもあります。返済が始まってから資金が回るかどうかは、資金繰り表を、エクセルで15分で作るの作り方でセットにしておくと、話が一段スムーズになります。
補助金の計画書は、なぜ「良い事業」でも落ちる?
ここ、いちばん誤解されているところです。
補助金の審査で落ちる計画書は、事業が悪いから落ちるわけではありません。審査項目に答えていないから落ちます。
補助金には必ず「公募要領」があり、そこに審査の観点が書いてあります。ざっくり言えば、こういうことを聞かれています。
- その課題は本当に困っているのか(現状の分析があるか)
- 打ち手は課題に対して妥当か(なぜその設備・その投資なのか)
- 実行できるのか(体制・スケジュール・資金)
- 効果は測れるのか(数字で書けているか)
つまり補助金の計画書は、作文ではなく答案用紙なんです。問題文(公募要領)に対して、順番どおりに答える。ここを外すと、どれだけ熱意があっても点が入りません。
逆に言えば、対策はシンプルです。公募要領の審査項目を、そのまま見出しにして書く。 審査員が探しているものを、探さなくていい位置に置いてあげる。これだけで通過率は変わります。
審査員の視点をもっと具体的に知りたい人は、補助金の事業計画書、審査員は”どこ”を見ているかにまとめてあります。
ここで銀行向けとの違いを整理しておきましょう。
| 読み手 | いちばん知りたいこと | 厚く書くところ | 嫌われる書き方 |
|---|---|---|---|
| 銀行 | 返せるか | 返済原資・堅めの数字 | 根拠のない売上2倍 |
| 補助金の審査員 | 審査項目に合うか | 課題→打ち手→効果 | 制度の趣旨とズレた投資 |
| 自分 | 明日何をするか | 行動と担当と期限 | きれいな作文 |
同じ会社の話でも、厚みをつける場所がまるごと違うのが分かると思います。
自分のための計画書は、なぜA4で1枚がいい?
3つ目の読み手が、いちばん忘れられています。社長自身です。
提出用の計画書は、出したら引き出しにしまわれます。でも本来いちばん使うべきなのは、自分用の計画書のほうです。
自分用に必要な条件は、たった1つ。月末に見返して、行動を直せること。
だから分厚くしてはいけません。A4で1枚。書くのはこれだけで足ります。
- 誰に何を売るか(今期の主力を1〜2つに絞る)
- 今期、粗利をいくら残すか(売上ではなく粗利で置く)
- そのために毎月やること(3つまで。担当と期限つき)
「そんな簡単でいいの?」と思うかもしれません。いいんです。むしろ、続けられる形にしないと意味がない。凝った計画書を1回作るより、雑な1枚を毎月見返すほうが、会社は確実に変わります。
この考え方は数字の見方でも同じで、数字が苦手な社長のための、月次で見る5つの数字にも通じます。ツールは、続くものが最強です。
3つを1本にまとめるコツはある?
あります。「土台」と「宛先向けの表紙」を分けるという考え方です。
事実の部分——沿革、商品、顧客層、直近3期の数字、強みと弱み、市場の状況——は、誰に出すときも共通です。これを土台ファイルとして1つ作っておきます。ここは資産なので、しっかり時間をかけて構いません。
そのうえで、提出のたびに組み替えます。
- 銀行に出すとき:土台+返済計画+資金繰り表
- 補助金に出すとき:土台+審査項目に沿った構成+効果指標
- 自分用:土台から今期の要点だけ抜いた1枚
こうしておくと、次に何かを出すときの作業時間が激減します。毎回ゼロから書いている社長は、土台を作っていないだけです。1回作れば、あとはずっと楽になります。
書き始める前に、5分でやる確認は?
いざ書く前に、この3つに口頭で答えてみてください。答えられないまま書き始めると、必ず途中で手が止まります。
- これは誰が読む書類?(名前が言えるくらい具体的に)
- その人は、読んだあと何を判断する?(貸す/採択する/来月やる)
- その判断に、いちばん効く情報は何?
3つ目が、あなたの計画書の主役です。主役が決まれば、あとの文章は自然に並びます。逆に主役が決まっていないと、全部を同じ強さで書いてしまい、結果として何も伝わりません。
今日やること
パソコンを開く前に、紙に1行だけ書いてください。
「この計画書を読むのは__さんで、読んだあと__を決める」
これだけです。1分で終わります。
宛先が決まった瞬間、書くべきことは驚くほど絞れます。逆に、この1行が書けないまま何時間もパソコンに向かっていたなら——進まなかったのは、あなたの能力のせいじゃありません。宛先のない手紙は、誰にだって書けないんです。
書けます、大丈夫。まずは宛先から。応援しています!
よくある質問
事業計画書は1つ作って使い回してもいいですか?
土台となる事実(沿革・商品・顧客・数字)は共通で使えますが、そのまま提出するのはおすすめしません。銀行は「返せるか」、補助金の審査員は「審査項目に答えているか」、社長自身は「明日何をするか」を見ています。見る場所が違うので、同じ文章では全員に刺さりません。土台を作り、読み手ごとに組み替えるのが正解です。
銀行向けの事業計画書で、いちばん大事なところはどこですか?
返済の原資がどこから出るのかを、数字でたどれるようにすることです。売上計画そのものより、「その売上がいくらの利益になり、そこからいくら返済に回せるか」の道筋が見えるかどうか。強気の売上予測より、根拠のある堅めの数字のほうが信用されます。
自分のための事業計画書は、どこまで細かく書けばいいですか?
分厚くする必要はまったくありません。むしろA4で1枚が理想です。「誰に何を売るか」「今期いくら粗利を残すか」「そのために毎月やること」の3つが書いてあれば十分機能します。提出用ではないので、見た目より、月末に見返して行動を修正できるかどうかで作ってください。
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