限界利益を理解すると、値引きの怖さが分かる
結論から、いきます。 値引きした1万円は、売上から引かれるのではありません。限界利益から、そのまま丸ごと引かれます。 つまり「1割引きくらい、いいか」の1割は、あなたの利益の1割ではなく、もっと大きい割合が消えているということです。
今日は、その仕組みを電卓ひとつで分かる形にして、丸ごと渡します。
限界利益って、結局なんですか?
難しく考えなくて大丈夫です。定義はこれだけ。
限界利益 = 売上 − 変動費
変動費とは、売れた数に比例して増える費用のこと。
- 材料費、商品の仕入原価
- 外注加工費
- 販売手数料、決済手数料
- 商品ごとにかかる送料
逆に、売れても売れなくても毎月かかるのが固定費です。家賃、正社員の給料、リース料、水道光熱費の基本料など。
つまり限界利益は、**「1つ売れるごとに、会社に増えるお金」**です。この積み上げで固定費を払い、残ったら利益になる。会社の仕組みって、突き詰めるとこれだけなんです。
なお、限界利益と決算書の「粗利(売上総利益)」は、計算のもとになる費用の定義が違うので一致しないことがあります。ただ、中小企業ではまず粗利で代用して構いません。名前を正確に覚えることより、「1個売れるといくら増えるのか」を自分の言葉で言えることのほうが100倍大事です。
なぜ値引きは「限界利益から直接」引かれるのか?
ここが今日の核心です。
たとえば、こんな商品があるとします(説明用の仮の数字です)。
- 売価:10,000円
- 変動費:6,000円
- 限界利益:4,000円(限界利益率40%)
ここで「1割引き」をします。売価は9,000円。1,000円の値引きです。
さて、変動費はどうなるでしょう。変わりません。 材料も仕入れも、値引きしたからといって安くはならない。
- 売価:9,000円
- 変動費:6,000円(そのまま)
- 限界利益:3,000円
値引きしたのは売価の10%。でも限界利益は4,000円 → 3,000円で、25%減っています。
これが「値引きは限界利益から直接引かれる」という意味です。売価の1割引きが、手元に残るお金の2割5分引きになる。体感の2.5倍のダメージを、毎回受けているわけです。
しかも限界利益率が低いほど、この倍率は跳ね上がります。
| 限界利益率 | 10%値引きで、限界利益は | 実質の減少率 |
|---|---|---|
| 50% | 50% → 44.4% | 20%減 |
| 40% | 40% → 33.3% | 25%減 |
| 30% | 30% → 22.2% | 33%減 |
| 20% | 20% → 11.1% | 50%減 |
限界利益率20%の会社が10%値引きすると、1個あたりの儲けが半分になる。 これ、感覚では絶対に分かりません。だから計算するんです。
同じ現象を「粗利」の側から見た話は安売りが利益を”溶かす”仕組みに書いています。角度は違いますが、言っていることは同じです。
10%値引きの穴埋めに、いくら売ればいい?
「じゃあ、その分たくさん売ればいいじゃないか」——そう思いますよね。では、いくら売ればいいのか計算してみましょう。
会社全体の例でいきます(これも仮の数字です)。
- 売上:1,000万円
- 変動費:600万円
- 限界利益:400万円(限界利益率40%)
ここで全体を10%値引きしたとします。
- 売上:900万円
- 変動費:600万円(数量が同じなら変わらない)
- 限界利益:300万円
100万円ぶん、限界利益が消えました。これを取り戻すには?
値引き後の1円あたりの限界利益率は、300 ÷ 900 = 33.3%。400万円の限界利益を作るには、売上が 400 ÷ 0.333 = 約1,200万円 必要です。
つまり、元の1,000万円から約2割増し。「10%値引きしたから、10%多く売ればトントン」ではまったく足りません。
もっとキツい例も見ておきましょう。限界利益率20%の会社が10%値引きすると、値引き後の率は約11.1%。同じ限界利益額を得るには売上を約2倍にする必要があります。10%値引きで、売上2倍のノルマが発生する。これが「安売りしても楽にならない」の正体です。
覚え方はこうです。
必要な売上倍率 = 元の限界利益率 ÷ 値引き後の限界利益率
逆に、値上げしたら何個減っても大丈夫?
ここ、逆張りで面白いところです。値引きの計算が怖いなら、同じ式を値上げ側で使ってみてください。
さっきの会社(売上1,000万円・変動費600万円・限界利益率40%)が、10%値上げしたとします。
- 売上:1,100万円
- 変動費:600万円
- 限界利益:500万円(率45.5%)
元の限界利益400万円を維持するために必要な売上は、400 ÷ 0.455 = 約880万円。値上げ後の単価で考えると、販売数量が2割近く減っても、利益は元のままです。
値引きは「2割多く売らないと戻らない」、値上げは「2割減っても平気」。同じ10%なのに、向きが逆なだけでこれだけ違う。
もちろん現実には、値上げでお客さんが離れる不安があります。誰が離れて誰が残るのかは値上げでお客さんが減る会社と、減らない会社の違いに、どの商品から上げるかは値上げする商品はデータで選ぶにまとめました。
でも、まず知ってほしいのはこの非対称性です。値引きは思ったより効かない。値上げは思ったより怖くない。 算数がそう言っています。
自社の限界利益率を出す手順は?
やることは3ステップです。決算書を出してきてください。
ステップ1:変動費を拾う 売上に比例して増える費用だけを集めます。まずは売上原価をそのまま使って構いません。厳密にやりたいなら、販管費の中から販売手数料・出荷運賃・外注費など、比例して動くものを足します。
ステップ2:引き算する 売上 − 変動費 = 限界利益。
ステップ3:割る 限界利益 ÷ 売上 × 100 = 限界利益率(%)。
これで完了。この1つの数字が、あなたの会社の「値引き耐性」です。
そして商品ごとにも出してみてください。限界利益率は商品によって驚くほど違います。 売上が大きい商品が、必ずしも稼ぎ頭とは限らない。商品別に整理する手順はABC分析のやり方を、社長向けに世界一やさしくが使えます。
出した限界利益率は、そのまま次の道具になります。固定費 ÷ 限界利益率 で損益分岐点が出るからです(損益分岐点の出し方と、下げ方)。
それでも値引きを求められたら?
現実には、断れない場面がありますよね。分かります。そのときのために、順番を置いておきます。
1. 値引きの前に「量」を条件にする。 「この価格にするなら、ロットはこれ以上で」。同じ値引きでも、数量が増えれば限界利益の総額は守れることがあります。
2. 値札ではなく、原価の低いもので返す。 納期の優先、おまけ、次回使えるサービス。あなたにとっての原価が小さく、相手にとっての価値が大きいものを探す。ここが腕の見せどころです。
3. どうしても引くなら、期間と対象を限定する。 一度下げた価格を戻すのは、上げるより難しい。「今回限り」「この品番だけ」を明示する。
4. 引く前に、必要な販売増を計算する。 今日の式で出してください。「2割多く売らないと元に戻らない」と分かったうえで決めるのと、なんとなく引くのは、まったく別の行為です。
判断そのものより、計算してから決めるという手順が大事なんです。
今日やること
決算書を出して、限界利益率を1つ出してください。
(売上 − 売上原価)÷ 売上 × 100。電卓で20秒です。
出たら、その数字を使ってこう考えてください。
「今、10%値引きしたら、同じ利益を出すのに売上はいくら必要になる?」
その答えを見てから、次の見積書を書いてほしいんです。
値引きを求められると、断れない自分を責めたくなりますよね。でも、あなたが弱いんじゃない。武器を持たずに交渉のテーブルに座っていただけです。今日、その武器を1つ持ちました。
数字を握った社長は、堂々と話せます。応援しています!
よくある質問
限界利益とは何ですか?粗利とは違うのですか?
限界利益=売上−変動費です。変動費は、売れた数に比例して増える費用(材料費・仕入原価・外注費・販売手数料など)を指します。粗利(売上総利益)とは計算のもとになる費用の定義が違うため、一致しないこともあります。中小企業では実務上、まず粗利で代用して構いません。大事なのは名前ではなく「1個売れるごとに、いくら手元に増えるのか」を把握することです。
10%値引きすると、どれくらい多く売る必要がありますか?
限界利益率によります。たとえば売上1,000万円・変動費600万円(限界利益率40%)の会社が10%値引きすると、限界利益率は約33%に落ち、同じ限界利益額を確保するには売上を約33%増やす必要があります。限界利益率が低い会社ほど必要な販売増は大きくなり、率20%の会社では10%値引きの穴埋めに売上2倍が必要になります。
値引きせずに売るには、どうすればいいですか?
値引き以外の理由で選ばれる状態を作るのが本筋です。具体的には、まとめ買いや上位プランなど「単価が上がる選択肢」を用意する、値引きの代わりにおまけや優先対応など原価の低い価値を渡す、といった方法があります。どうしても値引きするなら、全商品一律ではなく期間と対象を限定し、あらかじめ必要な販売増を計算してから決めてください。
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