IT導入補助金でAIツールは入れられるのか
結論から、いきます。 「AIツールをIT導入補助金で入れられますか?」——この問いの答えは、ツールの性能でも話題性でもなく、そのツールが登録されているかどうかで決まります。
制度の構造を知ると、探し方そのものが変わります。今日はそこを丸ごとお渡しします。ただし最初に一つだけ。登録の範囲も枠組みも年度・公募回ごとに変わります。必ずその年度の公募要領と公式サイトを、ご自身の目で確認してください。
この制度は、なぜ「選ぶ」制度なのか?
まず大枠から。IT導入補助金は、ざっくり言うと**「あらかじめ登録・審査を通ったITツールを導入する費用を後押しする」**という考え方の制度です。
ここが他の補助金といちばん違うところ。ものづくり系や持続化系は「何を買うか」を自社で自由に決められますが、この制度は用意された棚から選ぶ構造になっています。ツールを提供する事業者側が登録し、その事業者と組んで申請する、という形が基本です。
なぜそうなっているのか。想像はつきます。ITは中身が外から見えにくい。「システム一式500万円」と言われても、それが妥当かどうか審査のしようがない。だから先にツール側を審査しておく、という設計になっているわけです。
この構造が分かると、探す順番が決まります。
- 自社の困りごとを決める
- 登録ツールの一覧を、その困りごとで絞る
- その中から選ぶ
「気になるAIツールがあるから使えるか調べる」ではなく、「登録されている中に、うちの困りごとを解けるものはあるか」。この順番のほうが、ずっと早くたどり着けます。
AIツールは対象になるのか、という問いへの答え方
さて本題。近年、AI機能を持つ業務ソフトはどんどん増えています。会計、請求、在庫、顧客管理、問い合わせ対応、文字起こし——「AI搭載」を掲げる製品は珍しくなくなりました。
で、それらが補助対象になるかというと、判断基準は一つ、登録されているかどうかです。
ここで気をつけたいのが、世の中の呼び方の混乱です。「AIツール」という言葉には、少なくとも3種類が混ざっています。
- ① 汎用の対話型AIサービス(月額で契約して文章や要約に使うもの)
- ② AI機能が組み込まれた業務ソフト(請求書の読み取り、需要予測など)
- ③ 自社専用に作るAIの仕組み(自社データで組むシステム)
このうち、制度の入口に乗りやすいのは、一般的には②です。業務のパッケージとして登録されているもの、という形だからです。①は契約形態や用途の性質から扱いが分かれやすく、③は次の章のとおりです。
繰り返しますが、これは一般的な傾向の話であって、枠や年度によって扱いは変わります。 「去年はこうだった」を持ち込まないでください。
自社で作るシステムは、なぜ対象になりにくいのか?
「うちの業務は特殊だから、専用に作りたい」——気持ちはよく分かります。実際、既製品が合わない業務はあります。
ただ、この制度の構造上、自社専用のスクラッチ開発は対象になりにくいと考えておくのが安全です。理由はさっきの話と同じで、事前にツールを審査しておく仕組みだから。世界に1つしかないものは、その棚に並びようがないわけです。
じゃあ自社開発は諦めるのか、というと、そうではありません。考え方はこう。
- 既製品で足りる部分は既製品で埋める(制度が使えるかもしれない)
- どうしても自社でないと駄目な部分は、補助金と切り離して投資判断する
全部を制度に乗せようとすると、かえって遠回りになります。補助金を待つことの機会損失については補助金に頼らず設備投資する判断基準に書きましたので、あわせてどうぞ。
そもそも「自社の課題からAIを逆引きする」考え方は「AIで何ができるの?」に答える地図にまとめてあります。ツールから入らず課題から入る、という点で、この記事とまったく同じ話です。
いちばん多い失敗「入れて終わり」は、どう防ぐ?
ここからが本当に大事な話です。
IT導入で最も多い失敗は、採択されないことではありません。採択されて、導入して、誰も使わないことです。
こういう景色、見たことありませんか。
- 高機能な顧客管理を入れたが、入力するのが面倒で誰も使わず、結局エクセルに戻った
- 全社員のアカウントを契約したが、ログインしているのは社長だけ
- 紙とシステムの二重運用になり、前より手間が増えた
原因はツールの善し悪しじゃありません。導入前に「誰の、どの作業が、どう変わるか」を決めていないからです。
ここは省力化の考え方とまったく同じで、先に現状の作業時間を数える必要があります。数え方は省力化投資補助金をゼロから理解するに手順を書きました。紙とスマホのタイマーでできます。
では、どう防ぐか。契約書にハンコを押す前に、この4つを紙に書いてください。
- 誰が使うのか(部署名ではなく、氏名で)
- どの作業が置き換わるのか(今やっている手作業のうち、どれが消えるのか)
- いつやめるのか(置き換わる旧作業を、何月何日にやめると決める)
- 困ったとき誰に聞くのか(社内の窓口役と、提供事業者のサポート窓口)
特に3番。旧作業をやめる日を決めていないと、システムは絶対に定着しません。 人は慣れたやり方に戻ります。二重運用が始まった瞬間、その導入は失敗が確定します。
そして4番。導入したツールの提供事業者は、伴走してくれる立場でもあります。サポートをどこまで受けられるかは、選ぶ段階で必ず聞いてください。 安いだけで選ぶと、ここで詰みます。
AIを業務に入れる最初の一歩は中小企業が生成AIで最初に自動化すべき“たった1つ”の業務に具体例を書きましたので、イメージが湧かない方はそちらから。
制度が使えなくても、やる価値はありますか?
最後に、いつもの問いです。
そのツール、補助金が使えなくても入れますか?
「使えないなら入れない」なら、それは業務の急所ではないということ。急所でないものにシステムを入れても、定着しません。逆に「制度がなくても入れる」と言い切れるものは、導入後の推進力がまるで違います。
このあたりの考え方は補助金は“もらえるお金”ではないにまとめてあります。制度が主役になった瞬間に、事業が脇役になる。IT導入は特に、その罠にはまりやすい分野です。
今日やること:「面倒くさい作業」を1つ書き出す
ツールのサイトを見る前に、紙にこう書いてください。
「毎週やっている作業の中で、いちばん面倒くさいもの」
そして横に、それに週何分かかっているかを書く。分からなければ、次にやるとき測ってください。
そこが、あなたの会社のIT化の入口です。話題のツールから入るのではなく、あなたが毎週ため息をついている作業から入る。 その順番でいけば、入れたシステムは必ず使われます。
制度の要件は毎年変わります。でも「面倒な作業から手をつける」は、いつの年度でも正解です。応援しています!
よくある質問
IT導入補助金で、話題のAIツールは導入できますか?
この制度は、あらかじめ登録・審査を通ったITツールの中から選ぶ仕組みが基本です。したがって「そのAIツールが登録されているかどうか」で決まります。話題性や性能ではなく、登録の有無が入口になります。登録ツールの一覧や対象範囲は年度・公募回ごとに変わるため、必ずその年度の公募要領と公式サイトを確認してください。
自社で作ったシステムは対象になりますか?
一般的には対象になりにくいと考えておくのが安全です。この制度は登録された既製のITツールを導入する形が基本のため、自社専用のスクラッチ開発はなじみにくい構造になっています。ただし枠や年度によって扱いが異なることがあるので、断定せずその年度の公募要領で確認してください。
IT導入でいちばん多い失敗は何ですか?
「入れて終わり」です。補助金で導入したものの、誰も使わないまま放置されるケースが最も多い失敗です。原因はツールの善し悪しではなく、導入前に「誰の、どの作業が、どう変わるか」を決めていないこと。運用のルールと担当者を先に決めておくことが、ツール選び以上に重要です。
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