町工場の利益が残らない理由。忙しいのに儲からない構造を分解する
結論から、いきます。 町工場の利益が残らない最大の理由は、受注が足りないからでも、社長の頑張りが足りないからでもありません。「忙しい時間」の中に、粗利を1円も生んでいない時間が大量に紛れ込んでいるからです。
しかもその時間は、忙しさに完璧に隠れています。だから真面目な会社ほど、気づけない。今日は、その隠れた時間をあぶり出す方法を丸ごと渡します。
なぜ稼働率を上げても利益が増えないのか?
「機械を遊ばせるな」——工場では、ほぼ絶対の正義として扱われる言葉ですよね。実際、多くの町工場が稼働率を必死に上げています。
でも、ここに落とし穴があります。
稼働率は「機械が動いていた割合」であって、「粗利を生んだ割合」ではない。
機械が動いていても、それが手直しの作り直しなら、粗利はゼロどころかマイナスです。試し加工も、材料待ちのあいだの段取りも、同じ。機械は動いている。社員も動いている。でも、粗利は動いていない。
さらに厄介なのが、稼働率を上げようとして小口の仕事を拾ってくるパターンです。空いた機械を埋めるために単価の低い小ロット品を入れる。機械は埋まる。数字上の稼働率は上がる。そして段取り替えが増え、残業が増え、利益は減る。
「忙しいのに儲からない」の正体は、たいていここです。あなたの会社が怠けているわけでは、まったくありません。むしろ真面目に埋めた結果、そうなっているんです。
三重苦——段取り替え・小ロット・材料費
いまの町工場を苦しめている構造を、3つに分解してみます。
① 段取り替え時間
品種が増えるほど段取り替えが増えます。段取り替えのあいだ、機械は止まり、人は動き、売上はゼロ。1回30分の段取り替えが1日4回あれば、それだけで2時間。1か月20日なら40時間です。人ひとりの月の稼働の、4分の1が消えている計算になります(1日8時間・月20日=160時間として)。
② 小ロット化
取引先の在庫を持ちたくないという事情から、発注は「少しずつ、こまめに」に寄っていきます。同じ年間数量でも、10回に分けて発注されれば段取り替えは10回。手間だけが増えて、単価はそのままという状態が生まれます。
③ 材料費・エネルギー費の上昇
そして仕上げに、材料と電気代です。ここは自社の努力で下げきれる部分が少ない。上がった分をどう扱うかの算数は原価が上がった分だけ値上げしても、利益は戻らない理由にまとめてあります。同額を上乗せしても率は戻らないという話は、工場の利益を考えるうえで先に知っておいてほしいところです。
この3つが同時に来ているので、「昔と同じようにやっているのに残らない」が起きます。やり方が悪くなったのではなく、前提が変わったんです。
「機械が動いている時間」ではなく「粗利を生んでいる時間」で見る
では、どう見ればいいか。ものさしを1本、入れ替えてください。
時間あたり粗利 = その仕事の粗利額 ÷ その仕事に使った総時間
ポイントは分母の「総時間」です。ここに加工時間だけでなく、段取り替え・材料の準備・検査・手直し・運搬・梱包まで全部入れる。ここを入れるか入れないかで、答えが逆になります。
たとえば、こんな2つの仕事があるとします(数字はすべて説明のための仮定です)。
| A:量産品 | B:小ロット特注品 | |
|---|---|---|
| 受注金額 | 20万円 | 8万円 |
| 材料費 | 8万円 | 2万円 |
| 粗利額 | 12万円 | 6万円 |
| 加工時間 | 20時間 | 6時間 |
| 段取り・検査等 | 2時間 | 6時間 |
| 総時間 | 22時間 | 12時間 |
| 時間あたり粗利 | 約5,450円 | 5,000円 |
加工時間だけで見ると、Bは6時間で6万円=時間1万円。Aより儲かっているように見えます。ところが段取りと検査を入れた途端、AとBはほぼ並ぶ。もし段取りがもう2時間伸びれば、Bは逆転します。
「うちの特注品はおいしい」と思われていた仕事が、実は工場の時間をいちばん食っている——これ、本当によくある話です。悪いのは特注品ではなく、特注の手間が値段に乗っていないことです。
粗利そのものの考え方に不安があるなら、限界利益を理解すると、値引きの怖さが分かるを先に読んでおくと、この表の意味がはっきりします。
赤字受注は、どうやって見抜けばいい?
やることは、たった3ステップです。特別なシステムは要りません。
ステップ1:直近3か月の受注を、金額の大きい順に20件書き出す
全部やろうとしないでください。上位20件で、たいてい傾向は見えます。
ステップ2:1件ずつ「総時間」を入れる
ここが山場です。加工時間は日報にあるはずですが、段取り替えの時間はたいてい記録されていません。だから、まずは1週間だけでいい、段取り替えを始めた時刻と終わった時刻をメモしてもらってください。ストップウォッチも管理システムも不要。紙とペンで十分です。
推測で埋めないでください。「たぶん20分」と書いた数字は、あとで自分を裏切ります。1件でいいから、実際に測る。
ステップ3:時間あたり粗利で並べ替える
並べたら、下から5件を見てください。そこにあるのが、あなたの工場の利益を静かに食べている仕事です。
見つかったら、順番はこうです。
- 値段を上げる交渉をする(根拠は今まさに手元にできた表です)
- 段取りを減らす(同じ品種をまとめて流す、治具を作る、材料を先に揃える)
- 条件を変える(最低ロットを決める、短納期対応を別料金にする)
- それでもダメなら、断る
4番を口にするのは怖いですよね。分かります。でも、時間あたり粗利が下から5件の仕事を抱え続けるということは、その時間で受けられたはずの良い仕事を断っているということでもあります。そして交渉に持っていく材料の揃え方は価格転嫁の交渉、何を持っていけば通るのかにリスト化してあります。表ができたら、そのまま使えます。
段取り替えは、どこまで減らせる?
「段取りを減らせと言われても、うちの仕事はそういうものだから」——そう思った方へ。減らし方は、実はかなり地味です。
- 同じ段取りの品種を、まとめて流す(受注順ではなく、段取り順に並べ替える)
- 外段取りに移す(機械を止めずにできる準備を、止める前に済ませておく)
- 治具を作る(1個作れば、以降ずっと効く)
- 材料と図面を、機械の横に前もって置く(探す時間は、丸ごと粗利ゼロ)
派手さはありません。でも、1回20分の段取りが15分になれば、1日4回で20分、月20日で約6.7時間。それが、そのまま加工に回せる時間になります。
そしてここでもう一段。「早く終わったぶんで、もっと受注しよう」と考えないでください。 空いた時間は、まず時間あたり粗利が高い仕事に回す。埋めるために単価の低い仕事を入れた瞬間、また元の構造に戻ります。空きを恐れて安い仕事で埋めるのが、この構造の入口なんです。
数字が出せないときは、どこから手をつける?
「そもそも受注ごとの原価なんて出していない」——大丈夫です。むしろ普通です。
そのときは、会社全体でざっくり出すところから始めてください。
1時間あたり必要粗利 = 年間の固定費 ÷ 年間の総稼働時間
固定費は、人件費・家賃・リース料・水道光熱費など、売上がゼロでも出ていくお金です。決算書のどこを見ればいいのか迷ったら、まずは販売費及び一般管理費の合計から始めれば十分です。
たとえば年間の固定費が6,000万円、稼働時間が年間12,000時間なら、1時間あたり5,000円の粗利を生まないと、その時間は赤字ということになります(これも仮定の数字です。自社の数字で置き換えてください)。
この5,000円という数字が1本立つだけで、見積の景色が変わります。「この仕事、10時間かかって粗利4万円か。基準に届いていないな」——判断が、感覚から数字に変わる瞬間です。
工場は「機械あたり」より「人あたり」で見たほうが実態に合うことも多いので、人数で割った数字も一度出してみてください。
今日やること
今日は1つだけ。明日の朝礼で、「段取り替えを始めた時刻と、終わった時刻だけ、1週間メモしてください」と頼んでください。
品目名と、開始時刻と、終了時刻。これだけです。紙でいい。集計も、まだしなくていい。
1週間後、その紙を眺めてみてください。おそらく、あなたが思っていた時間の1.5倍から2倍の数字が並んでいます。そのときに感じる「え、こんなに?」——それが、あなたの工場に眠っている利益の在りかです。
機械が動いているのに残らないのは、あなたの経営が下手だからじゃありません。測っていない時間があっただけです。測れば、必ず見えます。大丈夫。応援しています!
よくある質問
工場の稼働率を上げているのに利益が増えないのはなぜですか?
稼働率は「機械が動いていた時間の割合」であって、「粗利を生んだ時間の割合」ではないからです。段取り替え・手直し・材料待ちの時間は、機械が動いていても粗利を生みません。稼働率が上がっても、増えた分が段取り替えの多い小ロット品だった場合、忙しさだけが増えて利益は減ることがあります。
赤字受注かどうかは、どうやって見抜けばいいですか?
受注ごとに「粗利額 ÷ その仕事に使った総時間(段取り替え・検査・手直し・運搬を含む)」を出して、時間あたり粗利で並べてください。加工時間だけで計算すると黒字に見える仕事が、段取り替えを含めた途端に赤字になることがあります。段取り替えの時間を計算に入れるかどうかが、見抜けるかどうかの分かれ目です。
小ロットの仕事は断ったほうがいいのですか?
断る必要はありません。問題は小ロットそのものではなく、小ロットの手間が価格に乗っていないことです。段取り替え1回あたりの時間を実測し、その人件費と機会損失を段取り費として見積に明示する。それでも受けてもらえるなら、小ロットは立派な強みになります。
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