小さな会社のBCP(事業継続計画)。1枚の紙から始める備え方

小さな会社のBCP(事業継続計画)。1枚の紙から始める備え方

結論から、いきます。 小さな会社のBCP(事業継続計画)に、分厚いバインダーは要りません。A4一枚で、十分に機能します。

むしろ100ページの計画書は、誰も読まないので機能しません。停電の暗闇の中、水の引かない現場で、100ページをめくる人はいない。必要なのは、壁に貼ってあって、3秒で目に入る1枚です。今日は、その1枚の作り方を丸ごと渡します。

なぜ分厚いBCPは、いざというとき使えないのか?

BCPと聞くと、多くの社長がこう思います。

「うちみたいな小さい会社に、そんな立派なものは無理だ」

その感覚、実は半分正しくて、半分もったいない。

正しいのは、大企業のBCPは真似しなくていいという点です。大企業のBCPが分厚いのは、拠点が多く、部門が多く、意思決定者が誰なのか平時から曖昧だからです。だから「誰が判断するか」を延々と定義する必要がある。

でも、あなたの会社はどうでしょう。判断するのは、社長です。 それで終わりです。だからページ数は要らない。

もったいないのは、「無理だ」と思って何も作っていないという点です。実際に止まるのは、地震のような大災害だけではありません。もっと地味で、もっと確率の高いことで、会社は止まります。

  • 台風で半日停電した
  • 大雨で、材料を積んだトラックが来られなかった
  • 見積を全部やっているベテランが、入院した

3つ目、いちばん怖くないですか。でも、いちばん起こります。

最近、取引先からBCPを求められていませんか?

もう一つ、無視できない流れがあります。取引先からBCPの提出を求められるケースが増えていることです。

理由は、供給が止まったときに困るのは発注側だからです。発注側は「この会社が止まったら、うちのラインも止まる」というリスクを管理したい。だから聞いてきます。

ここで多くの会社が固まります。「そんなもの作ってない」と。でも、ここはチャンスです。

なぜなら——同じことを聞かれた同業他社も、たいてい作っていないからです。A4一枚でも期限内に出せる会社は、それだけで「管理ができている会社」に見えます。完璧な100ページを半年後に出す会社より、A4一枚を今週出す会社のほうが、確実に評価されます。

BCPは、コストではありません。取引先に対する、いちばん安い信用のつくり方です。

なお、BCPに関しては公的な認定制度や支援策が用意されている場合があります。ただし制度の名称・要件・期限は変わります。利用を検討するときは、必ず所管の窓口や最新の資料を確認してください。

何を書けばいい?——A4一枚の中身

書くのは、3つだけです。

① 誰が指揮を執るか

社長です。以上——では、足りません。社長が連絡がつかないときに、誰が決めるかを書いてください。

指揮:社長(○○) 社長と連絡がつかない場合:工場長(○○)→ 経理(○○)の順で代行する 代行者が判断してよい範囲:社員の帰宅・出社の指示/取引先への一次連絡/10万円までの支出

最後の「判断してよい範囲」を必ず書いてください。これがないと、代行者は結局「社長に聞かないと」で固まります。権限がない代理は、代理ではありません。

② 誰に、どの順番で連絡するか

BCPの9割は、実はこれです。

第1:従業員の安否(全員分の携帯番号と、家族の連絡先) 第2:主要取引先3社(担当者名・携帯番号・「いつまでに」何を伝えるか) 第3:主要仕入先(材料が来ないと止まる先) 第4:金融機関・保険会社

ポイントは、連絡手段を2つ書くこと。電話がつながらない前提で、SNSのグループやメールなど別ルートを1つ決めておく。そして、そのルートを平時に一度だけ使ってみる。使ったことのない手段は、本番でも使えません。

そしてもう一つ。この一覧を紙で持っている人を、最低2人作ってください。連絡先が全部クラウドの中にあって、そのクラウドにログインできる人が1人しかいない——これ、本当によくあります。

③ 何を優先して戻すか

全部を同時に戻すことはできません。だから先に決めておく

止めてはいけない業務(3つだけ)

  1. ○○社向けの××の出荷(止まると相手のラインが止まる)
  2. 給与の支払い
  3. (自社の主力業務)

1週間止めてよい業務 ・新規の見積対応 ・請求書の発行 ・採用活動

3つに絞るのが大事です。5つ書いた瞬間、それは優先順位ではなくなります。選ぶとは、捨てることです。

想定するのは、この3つでいい

あらゆる災害を想定しようとすると、絶対に終わりません。だから3つに絞ります。

① 停電

いちばん頻度が高く、いちばん軽視されています。半日止まるだけで、何が起きるか書き出してください。

  • 機械が止まる(復旧時の立ち上げ手順は、誰の頭の中にありますか?
  • レジ・受発注システムが使えない(紙で受ける様式は、ありますか?
  • 冷蔵・冷凍が止まる(食品系なら死活問題)
  • 携帯が充電できない(連絡網が機能しない)

対策も地味でいいんです。モバイルバッテリーを事務所に3つ置く。手書きの受注伝票を50枚、引き出しに入れておく。これだけで、半日の停電は「困った」で済みます。

② 水害

自社の住所を、自治体が公開しているハザードマップで一度だけ確認してください。それだけで、やるべきことの半分は決まります。

浸水想定がある地域なら、優先すべきは「守るもの」を決めることです。

  • サーバーやパソコンを床に直置きしていないか
  • 図面・契約書・帳簿の原本は、どこにあるか(バックアップは別の場所にあるか)
  • 材料や製品を、低い場所に積んでいないか

いちばん安上がりな水害対策は、データを別の場所に置くことです。パソコンが1台水没しても会社が止まらない状態を作る。これは今日中にでも始められます。

③ キーパーソン不在

そして、いちばん現実的なリスクがこれです。

  • 見積を作れる人が、1人しかいない
  • 銀行と話せるのが、社長だけ
  • あの機械の段取りを組めるのが、○○さんだけ

災害より、入院や急な退職のほうが確率は高い。 そしてダメージは、意外と同じくらい大きい。

対策は、BCPというより日々の仕組みづくりです。属人化した仕事を1週間で引き継ぎ書に変える手順は属人化した業務を仕組みに変える。1週間でできる引き継ぎ書の作り方にまとめてあります。BCPの一環として、まずキーパーソン1人分だけやってみる——これが、いちばん費用対効果が高い備えです。

設備側の「突然止まる」を減らす話は設備の突然停止を防ぐ。予兆は、音・振動・熱・油の色に出ているにあります。止まってから慌てるより、予兆で気づくほうが、はるかに安い。

止まったあと、会社を殺すのは何か?

ここは、多くのBCPが書き忘れているところです。

被災した会社が本当に倒れるのは、建物が壊れたときではなく、お金が回らなくなったときです。

売上が1か月止まっても、出ていくお金は止まりません。給与、家賃、リース料、仕入先への支払い。だから、BCPの1枚にはこの一行を必ず入れてください。

売上がゼロでも、当社は ___ か月もつ。

出し方は簡単です。

手元資金 ÷ 1か月の固定費(売上ゼロでも出ていくお金)

たとえば手元資金が1,200万円、月の固定費が400万円なら、答えは3か月(数字は仮定です。自社の数字で置き換えてください)。この数字を知っているかどうかで、非常時の判断速度がまるで変わります。3か月あると分かっていれば、慌てて安い仕事に飛びつかずに済む。

そして、この数字が1か月を切っているなら、それは災害対策より先に手をつけるべき課題です。資金繰り表の作り方は資金繰り表を、エクセルで15分で作るに、固定費の見方は損益分岐点の出し方と、下げ方にあります。

BCPとは、防災グッズを買うことではなく、「どれだけ耐えられるか」を知っておくことです。知っていれば、慌てません。慌てなければ、判断を間違えません。

作ったBCPを、どうやって”生きた紙”にする?

最後に、これだけは。作って引き出しにしまったBCPは、存在しないのと同じです。

やることは3つ。どれも1時間かかりません。

  1. 貼る:事務所と現場に1枚ずつ。ラミネートすれば水にも強い
  2. 配る:全員に1枚。財布か作業着のポケットに入るサイズで
  3. 年に1回、日を決めて見直す(更新日を紙の隅に書いておく)

そして、いちばん効くのが5分の口頭訓練です。朝礼で、こう聞くだけ。

「いま停電したら、誰が何をしますか?」

答えが返ってこなければ、その紙はまだ生きていません。答えが返ってきたら——あなたの会社は、もうBCPを持っています。

今日やること

今日は1つだけ。A4を1枚、机に置いてください。 そして、この3行だけ埋めてください。

  1. 社長と連絡がつかないとき、指揮を執るのは ____ さん
  2. 真っ先に連絡する取引先は ____ 社(担当:____ さん/携帯:____)
  3. 何があっても止められない業務は ____

3行です。10分もかかりません。これで、あなたの会社のBCPは今日から存在します。 残りは、後から足していけばいい。

完璧な計画書を目指して1年何も作らないより、不完全な1枚が今日あるほうが、会社は絶対に守られます。備えは、立派さではなく、あることに意味があります。

大丈夫、今日の10分で足ります。応援しています!

よくある質問

小さな会社にBCP(事業継続計画)は本当に必要ですか?

必要です。ただし大企業のような分厚い計画書ではなく、A4一枚で十分です。従業員が少ない会社ほど、社長やベテラン1人が動けなくなった瞬間に業務が止まります。むしろ規模が小さいほど、止まったときの影響が読みやすく、備えも短時間で作れます。

BCPには何を書けばいいですか?

最低限は3つです。①誰が指揮を執るか(社長が不在のときの代理も含む)②誰に・どの順番で連絡するか(従業員・取引先・仕入先の連絡先一覧)③何を優先して復旧するか(止めてはいけない業務を3つだけ選ぶ)。この3つが1枚に書いてあれば、機能するBCPになります。

取引先からBCPの提出を求められました。どう対応すればいいですか?

まずは求められている様式や項目を確認してください。多くの場合、緊急時の連絡体制と代替手段が書かれていれば足ります。完璧な計画書を目指すより、A4一枚を期限内に出すほうが評価されます。なお公的な認定制度や支援策もありますが、名称や要件は変わるため、詳細は所管の窓口や最新の資料で確認してください。

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